9      光の救世主達は希望を守った
 
 
 
「朝か・・・・」
 雑然とした感じでスレインは目を覚ました。移住を決めたもののまだ、踏ん切りがつかないーそんな自分を責めながら身支度を整える。
「おーい、スレイン。早く準備して。」
 クリスがドアをノックして呼びかける。
「わかった。」
 放送が聞こえてきた。
「時空融合計画、発動まであと1時間30分、全ての準備を整えよ。」
 −もう、覚悟をきめなきゃ。
 アネット達はこの島にはもういない。対岸で計画の発動を見守っている。
「さあ〜スレインさ〜ん。レッツゴーです〜」
 例外はラミィだけだ。彼女はぎりぎりまでついてきてくれるらしい。いつもどおりの口調が少しだけスレインの心を明るくした。
「おはよう、クリス。それにローザも」
「はやくしないと遅れるよ。」
「分かってる。」
 2人と一緒にスレインはキシロニアの住民が集まっている場所に向かった。
 場所は時空制御塔の西側だった。時空融合の影響を避けるため、移民達は安全区域に移動することになっていた。
「こっちよ、2人とも座って。」
 見渡す限りの人で一杯だった。彼等は狭いスペースに座り、移住の時を待っていた。
 そろそろ、計画はスタートする。ラミィのほうを見ると、彼女は頷いた。
「スレインさん〜。それでは、ここでお別れです〜。」
「うん」
 彼女に会わなければ、自分の素性や能力それにモニカやヒューイと出会うことはなかっただろう。
 だから
「ありがとう。」
 という言葉が自然に出ていた。
 ラミィはそれを聞くと寂しそうな顔に、嬉しさを滲ませ、そしてスレインから離れて行った。
 異常な振動をスレインが感じたのはそれからしばらく経ってからだった。
 
「各ブロックより報告あり、移住準備終了、総員定位置につきました。」
「時空融合エネルギー注入準備よろし、全機構チェック終了、オール・グリーン」
「これより、40分後に予定どおり、時空融合を行う。最早、後戻りは出来ぬ。エネルギー注入を開始せよ。」
 そこまで命じた時までは予定通りだった。予定外のことが起きたのはその直後だった。
 けたたましい警報が鳴り響いた。同時に強い揺れが感じられ、制御室の照明も消えた。
「何事だ!?」
 冷静を持ってなるフェザリアン達も直には事態を把握できなかった。ややあって、電源が回復すると、報告が上がる。
「外部よりの攻撃です!1号魔法障壁、及び2号・・・全ての魔法障壁が攻撃を受けています!3号出力低下!」
「我等の装置はそう簡単に破壊はされぬ。現状を報告しないさい。」
 氷のように落ち着いた口調で女王は言った。それがやや慌てていた指令室内の雰囲気を鎮めていく。
 ややあって、防衛担当が報告した。
「攻撃を行っているのは島のモンスターです。1号、2号は健在、しかし、3号の出力低下が著しい模様。但し、修理は可能と思われます。」
 異常振動は時空融合エネルギーが不足したため、装置が異常振動を起こしたというわけだ。
 つまり・・・現状では時空融合は出来ぬというわけか・・・
「陛下、我等の出番のようですな。」
 モニター画面に白髭を蓄えた武人の顔が現れた。元ローランド王国近衛師団長 ゴットハルド・ラインダース中将だった。
「このような事態のための防衛隊、1000名が志願しております。」
 世界の全てではなく、この島だけの時空融合となった時から、計画中に外部からの攻撃を受けた場合について検討がされていた。
 その結論は「この世界に取り残されることを前提に守護部隊を組織する」であった。この世界に取り残されれば、待っているのは死なのであって、その意味では決死隊と言える存在だ。これを構成するのは志願者のみとされていた。
 ほとんどが、ローランド出身者で大異変によって守るべきものを無くした者達だった。
「そなた達のこと忘れぬぞ。」
 女王の言葉にラインダースは見事な答礼を放った。
 
 
 アネット達にとっても、この攻撃は突然だった。4人が移住を見届けようとしていると、いきなり3号魔法障壁発生装置の方角から黒煙があがったからだ。
 そして、時空融合塔が僅かに振動している。
「これは!?何が起こっているの?」
 モニカは直に事態を把握した。
「敵の攻撃で、障壁の力が低下しているみたいね。このままじゃ計画は実行できないわ。」
「そんな・・・・」
 キシロニアの移民達やスレインの顔がアネットの頭に浮かんだ。皆の望みをここで消してはいけない。
 アネットはモニカやヒューイ、弥生の顔を見た。
「みんな、こんなことお願いできる立場じゃないけど・・・力を貸して。ここで計画を失敗させることなんて出来ない。」
 しかし、こんなことは言う必要はなかったのかもしれない。
「わかっとる。もとよりそのつもりや。」
「ここで、計画を失敗させることなんてできないわ。」
「乗りかかった船です。最後までお付き合いしますわ。」
 すぐに答えは返ってきた。
 攻撃を仕掛けているのはもしかしたらバーバラやその組織かもしれない。危険度は高い。それでも、助けてくれるという。
「ありがとう!皆」
 4人は3号魔法障壁に急いだ。距離はそれほどではなく10分くらいで現場に付いていた。
 そこで見たものは島に住む低級モンスターの大群だった。数はあまり数える気にならない。彼等は施設の至る所に攻撃を仕掛けていた。
 ええっと・・・こういうときはどう言えばいいんだっけ?
 自然と4人のリーダーのようになっていたアネットは一瞬迷ったが、すぐに思い直す。
 こういうときはシンプルに考えたほうがいいわよね。
「モニカちゃん、弥生さん援護して、アタシとヒューイで突っ込むわ!!」
「了解やで!」
 答える代わりにモニカは投げナイフを放った。弥生は魔法を詠唱し始めた。強力ではあるが速射できない弓より魔法のほうが大人数を撹乱するには役に立つと判断したようだ。
 アネットは駆け出すとレイピアの一撃をインプに見舞った。肉を切り裂く感覚が伝わり、相手の絶叫が聞こえた。低級モンスターに耐え切れる攻撃ではなかった。隣にいるヒューイはスピードのあるガーターの一撃で次々と敵を屠っていく。
 4人がそれぞれの攻撃を繰り出すたびにモンスターの集団に混乱が広がっていく。こうなると施設への攻撃どころではなくなる。
 でも、それは一時の混乱だ。すぐに体勢を整えるはずだ。
 なら
 アネットは叫んだ。
「今よ!障壁発生装置まで走りましょう!」
 接近戦が苦手なモニカと弥生をカバーしながら施設にたどりつく。
 うん、これで最悪背後から襲われることは無いわね。
 モンスター達は混乱を立て直しつつあった。種類が異なるモンスターの統制がこうもとれているのはどう考えてもおかしい。
「モンスター使いでしょうか?」
「そうね、見える位置にいるなら・・・そいつを倒したいところだけど・・・」
 無理よね、見つけている暇もないし。
「なら、時空融合計画が終わるまでここを守りきればワイらの勝ちや!」
「そうね。」
 と、モニカは苦笑しながら応じた。実際はそれほど簡単ではない。何しろ数が数だ。助けなしでは正直辛い。
「来るわよ!」
 モンスター達の突進が再び始まった。
 アネット達に第1の味方が現れたのはこの時だった。
「放てー!!」
 威勢の良い声と同時に弓矢がモンスターの群れに覆いかぶさった。同時に火の玉が飛んでくる。ファイアーボールの魔法だ。
モンスター達はダース単位で吹き飛ばされれ、矢でその身を貫かれた。
「あれは、守護部隊の人たちみたいね。」
「ワイらも負けてられまへんなあ!」
「そうね!行くわよ!皆!」
 アネット達もモンスター達に切り込んでいく。助けが来たということがアネット達の動きを軽くしていた。
 その姿は守護部隊の兵士からも良く見えていた。
「ほう、時鉱石の英雄達か、また助けられたな・・・諸君、突撃だ!彼らばかりを矢面に立たせてはならんぞ!」
 守護部隊の戦士たちの突撃が始まった。混乱したモンスター達をまるで作物の収穫のように屠っていった。
 
 
 移民達に状況を知らせる放送が流れた。異様な振動のせいで何かが起こっていることは移民達にも分かっていた。
「魔法障壁3号機が外部よりの攻撃で破損した。現在、防衛部隊、応急修理部隊が急行中。敵は低級モンスターであり、撃退は容易である。」
 それを聞いてスレインの胸がぎくりとなる。
 みんなが戦っている。
 アネット達のことだ、この危機を見過ごすことは無いだろう。一番手近な3号障壁に向かっているに違いない。
 敵は低級モンスターだ。守護部隊でも、アネット達でも対処できる・・・・
 本当にそうだろうか?
 でも、今更行っても何の助けにもならないかもしれない。
 何度か続く矛盾した問答。
 −駄目だ。
 スレインは立ち上がった。
「どうしたの?」
クリスがいきなり立ち上がったスレインを見上げた。
「ここにいないと危険だよ?」
「クリス、ローザ。ごめん。やっぱり、僕は残るよ」
 と言い残すとスレインは走り出し、ラミィを探した。まだ目に見えるところに彼女はいる。移民の中を潜り抜け、ラミィに話しかけた。
「ラミィ、皆がどこにいるか分かる?」
「す・・・スレインさん〜」
「皆の居場所を教えてくれ。」
 その言葉の意味をラミィは理解して、嬉しそうに答えた。
「はいです〜!!」
 アネット達を見捨てることは出来ない。低級モンスターが組織立って攻撃してくる・・・ならば、それを操っているものがいるはずだ。おそらく、あのバーバラのような存在が−
「スレイン!!」
「クリス・・・ローザ・・・」
 追いかけてきたのだろう。クリスとローザがいた。
 確認するようにローザが言う。
「やっぱり、行くの?」
 言外につらい記憶が待っていても?とい問いが入っているように感じられた。
 そんなの、怖いに決まっているじゃないか。でも、僕はここにいることは如何しても出来ない。皆があそこで戦っているのだから。
 スレインは頷いた。
 それを見たローザも頷いた。
「アネットお嬢様達を助けてあげて。」
「スレイン!」
 それまで、黙っていたクリスも言った。
「きっと、隊長や皆も−アネットお嬢様達も君の記憶探しに協力してくれる!だから、」
 最後の言葉を聴いてスレインは本当に背中を押されるのを感じた。
 頑張れ・・・かありきたりな言葉だけど。
スレインは走り出した。そう、この辺りに、前に案内された第3魔法障壁に通じるトランスゲートがあるはずだ。
 
 
 3号障壁周辺のモンスターは既に一掃されていた。
「よく、ここを守ってくれた。程なく他の施設も敵を征圧できるだろう。全く、君たちがいなければ、ここは危なかったかもな・・・」
 と、部隊を率いていたルドルフ大尉は言った。
「ここだけじゃなくて他の施設も攻撃を?」
 ルドルフはアネット達に全体の状況を伝えた。
 1、2,3号全ての施設が攻撃を受けていること。
 いずれも低級モンスターによる攻撃で撃退は容易であること。
 但し、この3号装置は破損しており、修理が必要であること。
 装置の修理に現れたのはまたも見知った顔だった。
「貴方・・・たしかビクトルさん?」
「おお、また会ったな、若者達よ。」
 老科学者は幾分焦った様子で現れた。施設の様子が気になっているのだろう。
「ワシがこの魔法障壁装置の修理をすることになった。なに、なんとか融合計画発動まで間に合わせてみせる。」
 3号障壁装置は各部に亀裂が走っているのが見て取れた。だが、深刻な損失は無いようだ。ビクトルは一瞬、安堵の表情を浮かべると「全く、ワシの装置をこんなに痛めつけおって・・・」と文句を言いながらその扉を開き修理に向かった。
「我等はこのモンスターを操っているモンスター使いに止めを刺す。」
 融合計画発動まで邪魔をされないように徹底的に叩く必要があるからな。と、ルドルフは語気を強めた。
 報告が届いた。
「隊長、東の森を抜けた先にモンスターの集団を発見、なお後方にモンスター使いと思しき人物も発見しました。」
「よろしい、ここに50名ほど守備隊を残し、残りはモンスター使いを叩く。」
 部隊は移動を開始し、魔法障壁装置の周辺は戦闘の中心ではなくなっていた。
 アネット達は追撃には参加せずにここで休むことにした。戦闘での疲労もあるし、何より、ここからなら時空融合計画を見届けることができるから。
「これで一安心ね。」
「これで、みんな、新しい世界にいけるのやろか・・・リーダーも」
「きっと、彼にとってはそのほうが幸せよ・・・」
「そうですね。」
 そういう4人の顔はどこか寂しげだった。
時空制御塔の姿が僅かに揺らいだように見えた。おそらく、1,2号機のエネルギーが流入したためだろう、これで3号が修理できれば、成功だ。
 だが、その見通しは前から突き崩された。
「うわあああ!!!」
 警戒に当たっていた兵士が轟音と共に吹き飛ばされた。魔法だ、それもファイアーボール程度のものではない、おそらくさらに高位の魔法だ。
「何よこれ!?」
 アネットがリングウェポンを呼び出しながら戦闘態勢を取る。
「囮やったんやな・・・モンスター使いが」
 敵が正体を現した。モンスターではない人間の戦士だ。人数は少数だが、その分実力はかなりのものなのだろう。
 
 
 
 
「くそっ!ここじゃないのか!?」
 普段余りあわてることの少ないスレインだったがこの時は違った。
 トランスゲートの場所が何処にあるか分からなかったのだ。正確にはルートがわからなかった。この前使ったルートは既に隔壁で閉鎖されていたからだ。
 こんなことがあってたまるか・・・
 ラミィも必死に入り口を探していた。だが、すぐに見つけるはずも無い。
 しかし、諦めるわけには行かない。
 そこで、皆が戦っているのだから。
「何をしているのだ!お主は!?既に計画は進んでいるのじゃぞ!」
「貴方は・・・!」
 見覚えのあるフェザリアンだった。
「お主は、モニカと一緒にいた・・・」
 モニカの祖父だった。彼は孫がこの世界に残ることを止めなかった。だが、彼自身はフェザリアンの技術者であり、計画から抜けることは出来なかった。
 スレインは事情を説明した。彼ならルートを知っているかもしれない。
「そうか、この世界にのう・・・分かった。付いて来なさい。」
 それを聞くとアレンはスレインをすぐそばの部屋に案内した。そこには小型のトランスゲートがあった。
「これは・・・」
「簡易用のトランスゲート、この施設内の短距離移動用のゲートじゃ。これを使えば、第3号障壁に通じるゲートある部屋に着く。」
 アレンは操作スイッチの一つの点を指差した。人間にも分かる文字で「外部連絡区画」とあった。
「ありがとうございます。」
「人間よ、モニカのことをよろしく頼みます。」
 モニカとリナシスの関係はこの老人からも話を聞くことができた。老人はフェザリアンなりの愛情で孫に接し、そしてその将来を案じていた。
「あの子は、ワシらフェザリアンよりむしろ人間に近いだから・・」
「アレンさん・・・・」
 時折冷酷とも評されるフェザリアンの涙をスレインは見た。
「傍にいてあげてください。モニカはあれで寂しがり屋なのです。」
「・・・・分かりました。」
 安請け合いなのかもしれないが、この老フェザリアンには他にかけるべき言葉が見つからなかった。
 そのスレインの内心も知っていのかもしれないが、アレンは笑い、そして言った。
「君達に幸運を。」
 スレインはラミィが近くにいるのを確認するとトランスゲートを動かした。光の中でアレンの姿が消えていった。
 
 
 
 
「てやあああ!!!」
 守護部隊と協力しながらアネット達は戦っていた。
 レイピアが盾で弾かれ、反撃が来る。
「くうっ!」
 長槍がわき腹のすぐ傍を通り過ぎた。
今まで戦っていたモンスターの比ではない、ただ、救いだったのは相手が少数でこちらが多数であったことだ。
「隙ありや!!」
 ヒューイの援護が入った。アネットに注意を向けすぎていた敵兵はこれに対応するのが僅かばかり遅れた。ヒューイの剣が背中を強打した。思わず体勢を崩し倒れたところをアネットのレイピアが止めを刺した。
「おのれ・・・シオン様・・・・」
 恨み言を呟き敵兵は死んだ。
 周りの戦いは続いていた。奇襲を受け混乱した守護部隊も気を取り直して応戦している。敵の数は20人程度で1人に2人で戦っていた。
 相手の技量は高く、1対2でも圧倒されるところもある。しかし、施設に攻撃されるまでのところまででもない。それに数は力であった。20人いた敵兵は5人にまで打ち減らされていた。
 その時、ヒューイと弥生は胸騒ぎに似たものを感じていた。自分たちと同じ精霊を操るものが近づいている。だが、その力は余りにも微弱だという違和感も感じていた。
「なんや、胸騒ぎがするなあ・・・」
「何それ、第6感?」
 肩で息をしながらアネットは回りを見渡す。敵は3人にまで減ったが降伏するつもりはないようだ。勝利は目前と思えた。
 その時、アネットの目に戦場には不似合いな男が写った。
「アイツは誰よ?」
 白い上下の服を着込んだ青年。表情は不思議なほど穏やかで、聖職者のイメージすらある。とても戦場に出てくるような人間には見えなかった。
 だが、その手にはれっきとした武器が握られている。槍だ。
 アネットは剣をこの男に向けた。
 それを見たヒューイが止めに入った。
「待つんや、奴は・・・生半可な相手やあらへん。」
「さっき言っていた胸騒ぎの原因なのアイツが?」
 アネットは弥生のほうも見た、彼女も頷いていた。その意味はすぐに分かった。
「なんだアイツは?あの新手を叩き潰すぞ。1人でノコノコ出てくるとは」
 防衛兵の何人かが青年に向かっていく。それ見た青年は無言で手を翳した。
「離れるんや!!」
 ヒューイは絶叫したが遅かった。
 黒い禍々しい波動が放たれた。突っ込んだ者たちは突然のことに対処しきれず、その波動に飲み込まれ、そして声も無く倒れた。
「・・・死んでいる・・・」
「何なのよ・・・あれ。」
 アネットはその光景に戦慄した。
「さあ、道を開けてもらおうか。」
 ヒューイと弥生は気が付いた。
 あの男が精霊使い−おそらく魂を扱う闇の精霊使い−だということを。
「我が名はシオン。道を開けよ。」
 敵を圧倒していた守護部隊もこれには呆然とするしかなかった。生き残った敵兵はシオンの周りに集まった。
 どうすればいいのよ−
 アネットは迷った。
 このまま突っ込んでもさっきの技で倒されてしまう。しかし、このまま彼の言いなりになるわけにも行かない。
 ヒューイの方を見た。
「ヒューイ、アイツの技の影響範囲は見れるの?」
「おぼろげながらやけれどな。」
「私も同じですわ。」
「なら、それを信じて突っ込むしかないわね。」
 モニカとヒューイそれに弥生は頷き返した。4人は覚悟を決めた。このままでは時空融合計画が失敗に終わってしまう。
 4人にとって第2の味方が現れたのはこのときだった。
 
 スレインがトランスゲートを抜けた先は戦場だった。直に自分の視界にアネット達の姿を捉えることができた。
「みんな!!」
 幸い無事のようだ。
 だが、防衛兵が大勢倒れている。楽な戦いではなくなっているのが見て取れた。
「スレイン!?」
 アネット達がこちらを振り向いた。続けて警告が飛んだ。
「気をつけて!!前の白い服の男−シオンに!!」
 白い服の男?シオン?
 スレインはシオンに目を向ける。
 その瞬間、ランドルフと会ったときと同じ感覚が走った。
 −僕はこの男を知っている。
 −そして、この男は僕と同じ、闇の精霊使い−少なくともその資質の持ち主だ。
 しかし、それ以上は分からない。この男とどのような関係にあったのかも。
 シオンと目が合った。紛れも無い敵意を感じた。
「まだ、私に楯突くものがいたか。」
 彼が手をこちらに向けた。
「スレインさ〜ん!闇の波動が来ます〜!!」
 ラミィの警告とほとんど同時に闇の波動が迫ってきていた。だが、恐怖は感じなかった。
 自分も精霊使いの資質を持っている。ならば−
「どけええ!!!」
 防御の姿勢をとりながら、スレインは闇の波動に突っ込んでいった。アネット達は思わず顔を覆った。
 そして、その攻撃に耐え切った。彼ばかりではなく周りにいた兵士たちも無事だった。
「え・・・?」
 アネット達は顔を覆っていた手をとり、無事なスレインを見た。
「皆!行こう!!」
 仲間達の反応は一瞬遅れたが、すぐにチャンスだと気が付いた。
「我が魔力よ、敵を滅ぼす力となれ!」
「行くわよ!」
 弥生の魔法が放たれ、モニカも投げナイフを繰り出す。
「行くでえ!ワイの力を見い!!」
「今のレイピアはちょっと違うわよ!」
「うおお!!」
 スレインも突っ込んだ。
 シオンの周りに集まっていた敵の生き残りを切り倒し、剣の間合いに彼を捉えた。
帯剣を振り下ろす。だが、それはシオンに届かなかった。その直前に何かに弾かれたのだ。
 バーバラの時と同じだった。
 ッー
 あの時とまた同じだなんて!今度は後が無いんだぞ!
 シオンが周囲の敵をなぎ払うように槍を振り回した。
「くっ!!」
 ここは一旦距離をとるしかない。
 スレインが一旦下がると、アネットとヒューイもシオンから距離を取る。
 入れ替わりに守護部隊の兵士がシオンに取り付くが、障壁に阻まれ、なかなかダメージを与えられない。
 敵への注意を向けながらヒューイが言った。
「リーダー戻ってきたんやな。」
「ああ・・・なんだか、あのまま行くって気にもなれなくて・・・」
「ワイは信じとりましたで。リーダーは帰ってくるって。」
 しかし、戻ってきたところであのシオンの障壁を打ち破れなければ意味は無い。
「モニカ、あの障壁はなんだと思う?」
「そうね、多分マジックアイテムの一種だと思う。」
 バーバラが使っていたものに比べると大分程度の悪いものだけど。
「なら、その装置の魔力がなくなるレベルの攻撃を繰り返せば・・・」
「マジックアイテムの魔力切れを狙うわけね。」
モニカは考え込む表情だったが、それならいけるかもしれないと言ってくれた。
「なら、それで行きましょう。」
アネットの言葉で方針が決まった。
アネット、ヒューイ、スレインがシオンの前に立ちはだかり、攻撃をかわしつつ剣の一撃を繰り出す。既に、守護部隊の兵士からの攻撃で魔力を消耗していたマジックアイテムにさらなる負荷をかけていく。
これに守護部隊の兵士たちも加わった。
そして
「退いてくさい!!」
後ろから弥生の声が響いた。思わず飛びのくと彼女の放った弓がシオンに向かっていった。
「ぐうう!!」
シオンが思わず顔を覆った。マジックアイテムは破られはしなかったが、大幅にその効果を弱めていた。
「ふふ・・・どうやら有効だったようですわね・・・」
 弥生は魔力の全てをあの弓矢の一撃に投じたようだった。彼女はよろよろとその場に座り込む。力を出し切ったのだろう。
だが、その甲斐はあった。
「む・・・これは障壁が・・・」
「今だ!!」
 スレインたちは同時に攻撃を繰り出し、それが止めになった。シオンの前にあった魔法の障壁は消失していたからだ。
「食らえ!」
 スレインは剣を横に構えシオンの腹部を狙って攻撃を繰り出した。シオンはその攻撃を槍で防ぐ。
 武器と武器の間に火花が散った。シオンは武器の扱いもかなりのものだった。そう簡単に攻撃を食らわない。
「スレイン!」
 だが、アネット達の助けが入ると、その防御も乱れる。3人同時に相手取るのは難しい、時折、モニカの狙い済ました援護がシオンをさらに追い詰めていった。
「ぐっ!」
 アネットのレイピアが彼の腕を貫いた。武器が零れ落ち、体勢が傾く。そこを狙ってヒューイの一撃が決まった。
 −勝てる。
 スレインは一歩前に進み出ると頭に大剣を振り下ろした。
「うぐうう!!!」
 頭部を保護していた魔法障壁がかき消され、シオンは倒れた。スレインは剣を彼ののど元に突きつけた。
 突きつけられたシオンは不思議と余裕の表情でスレインを見上げた。
「聞きたいことがある。何故、この時空融合計画を妨害した。-バーバラやクライブはお前の仲間か?」
「奴らの名前を知っているのか・・・」
「答えろ!」
「そうだ、2人とも私の部下だ。理由については語るわけにはいかないな・・・それはお前自信で調べてもらおう。」
 そこで、シオンはしげしげとスレインの顔を見る。
「ふん、だれかと思えば貴様か・・・儀式を行い私を追ってきたということか−全く無駄なことを・・・ククク」
「僕の事を知っているんだね?」
 スレインが尋ねた。
「ふん、記憶を無くしたか・・儀式の後遺症だな。」
 明瞭な答えを与えないシオンにスレインは苛立った。
 この男は何を知っているんだ。
「答えろ!!」
 だが、シオンは答えない。
「!スレインさ〜ん、!!危ないです!その人から離れてください〜」
 え!?
 ラミィの警句が飛び、スレインはすぐにシオンから離れた。
「奴から離れて!」
 仲間にも注意を促す。
「まずい、離れるんや!!」
 ヒューイも
「総員退避!!」
 守護部隊の隊長も危険を察知した。
 シオンの周りに集まっていた人々がいくらか離れた瞬間、シオンの体は眩い光に包まれそして、轟音の轟かせながら爆発した。
 煙が立ちこめ、何も見えなくなったが、やがて、煙を風がかき消していった。
 スレインは辺りを見回した。
「み・・・みんな、無事か?」
「私は大丈夫です。」
「アタシも大事無いわ。」
「同じや。」
「私も・・・」
 全員無事だった。幸い怪我もしていならしい。それは守護部隊の兵士も同じだった。
「魔法障壁は・・・?」
「心配要らないわ。無事よ。」
 モニカの言うとおりだった。煙が晴れてくると、魔法障壁装置は以前と変わらない姿を見せている。
それだけではない、この施設が稼動していることが分かる機械の音が聞こえてきた。
「全く・・・何事じゃ・・・騒がしくて、作業が思ったより時間がかかってしもうた。」
 と、ビクトルが施設の中から姿を現した。
 よかった。
 これで、何とかなるな・・・
 スレインはふとシオンがいた場所を見ると、小さなクレーターが出来ていた。
 彼は明らかに自分のことを知っている様子だった。そして、儀式の後遺症という言葉を使った。何の儀式なんだろう?
 もっと、聞き出せれば、あるいは・・・
「ん?」
 皆の視線に気づいた。
「戻ってきたのね・・・スレイン。」
「うん、」
 と、スレインは答えたが、それから先をどういえばいいのか分からなくなった。考えた末に出てきたのは。
「出戻りだけど・・・またよろしく!」
 という言葉だった。
「全く、紛らわしいことするんじゃないわよ!」
「又、あんさんと旅ができるんか・・」
「戻ってきたのね」
「お帰りなさい。」
 アネット達は思い思いの言葉を選び、次いでスレインを揉みくちゃにして彼を再び迎え入れた。
「時空融合塔が・・・・」
 誰かが塔の方向を指差した。時空融合塔の周辺にオーロラにも似た光の幕が出来上がっていた。
「成功したのね・・・」
「クリス・・・ピート」
 これで、お別れだね。
 スレインは手を振った。
 それは周りの人たちにも広がっていった。アネット達だけではなく、守護部隊の兵士たちも移住する人々に最後の挨拶を行っていた。
「向こうでも元気でなー!!!」
 
 3号魔法障壁の修理完了により、時空制御塔の機構は正常に動いていた。
「陛下、時空融合シークエンスに入ります!」
「よろしい。守護部隊はどうした?」
「はっ!報告では死者60名、負傷者100名が出たようですが、敵の駆逐に成功しました。」
 守護部隊の映像を見ると、彼等はこちらに手を振っていた。別れの挨拶なのだろう。
「我等は彼らのことを忘れてはならぬ。光の救世主達のことをな・・・・彼ら全てがグローランサーなのだ。」
 女王は彼らに光の信号を送るように命じた。もう解読できないかもしれないが・・・
塔から光が幾回となく明滅を繰り返した。
 我等ハ「グローランサー」達ヲ忘レズ。幸運アレ、幸運アレ。
 その思いも一瞬、時空融合が完成した。
 時空融合塔は30万の移民と共にこの世界から忽然と姿を消した。
 
 フェザリアン達が行った時空融合計画は成功した。
 
(つづく)
更新日時:
2011/11/19 

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Last updated: 2014/3/16