6      精霊使いは自身を語った
 
 
 今夜も雨が降っていたが、スレイン達がいる場所にそれは及んでいない。しっかりとした造りの家−かつては宿屋だったのだろう−それが今日の宿泊場所だ。
 ランプの明かりが雨に対する不安を和らげていた。スレインはその明かりを見つめていた。
 キシロニアを離れてもう一ヶ月近く。既にトンネルを越えて旧ローランド王国の鉱山都市に達し、フェザーランドはすぐそこだ。
 思い出すといろいろなことがあった。
 国境の町でのラミィのとの出会い、ランドルフとの対決。そして、新しい2人の仲間。
 モニカはまだ12歳だが、フェザリアンの血をひいているせいか、冷静で自分たちにはない知識を持っていた。戦いのセンスももしかしたら、自分よりも上かもしれない。
 しかし、旅のやりからはまだまだだし、頭を撫でられると、妙に照れたりする。アネットなどはその性格を読み取ったらしく、妹のようにモニカを可愛がっている。モニカも割悪い気はしていないようだ。
 ヒューイは旅の知識が豊富で、かなり頼りになる。おどけているよう見えて、案外熱血漢というのが印象だ。戦闘技量もパワーでは自分やアネットほどではないが、それを補う敏捷さで戦場を制している。
「あれ〜スレインさん〜。起きていたんですか〜。」
 こちらも相変わらずの口調だった。
「ああ、何だか眠れなくてさ。」
「あう〜。もしかして、トンネルのことをまだ気にしているんですか〜。」
 ラミィの言葉にスレインは暫し口をつぐんだ。図星だった。
「そう、その通りだよ。」
 ローランドが崩壊した時、難民があの山脈トンネルから帝国を目指そうとした。だが、帝国側は国境を封鎖した。食糧難の懸念がある帝国としては妥当な判断だった。
 しかし、それはトンネル内に地獄を出現させた。立ち往生した難民たちはそこで餓死していった。
 スレイン達がトンネルに足を踏み入れると、既に白骨化した遺体は無造作にまとめられていた。そして、輪廻の輪から外れた魂たちがこちらを睨んでいた。
 −なんで、この扉を閉ざすんだ。
 −お母さんはどこ?なんでお父さんは動かないの?
 −何か食べ物をください。お願いします。お願いします。
 −帝国なんか滅びればいいんだ。
 −死ね、死ね、死ね
 −早く死なないかな・・・もう飢えるのはやだ・・・早く、早く。
 それぞれの想いを言葉に込めて彼らは訴える。
 アネットやモニカは霊の姿は見えないが、それを差し引いてもあまりの惨状に立ちすくんでいる。それを必死に抑えようとしてるのがありありと分かる。
「どうやら、あんさんの出番のようやな。」
ヒューイがスレインに言った。
 スレインは頷き、前に出た。
「帝国に難民を受け入れる余裕はなかった。それよりも、ここにいるのはもっと辛い。」
 彼等は言葉で言う代わりに、スレインの頭のなかに自分たちの見た光景を投げかけた。
 −ッ!!
 初めは鉄の扉を開けようと、何度も体当たりを仕掛けた。しかし、扉は余りに頑丈だった。ついには体当たりをしていた人間が倒れていく。でも、ここで死んだ人たちはまだ幸せだったのかもしれない。携えてきた食料は2.3日もすると無くなった。
 食料が尽きると体力が落ちていく。体当たりも出来なくなっていった。そして、体力の無い子供や老人からつぎつぎと倒れていった。残された人々は死者の肉を食べ命をつないだが、終わりの時をほんの少しだけ引き伸ばしただけだった。
 絶望した人々の中には自殺をするものもいた。雨の大地に戻り、そこで命を落とすものもいた。錯乱した人が毎日のように出るが、それも体力の低下により次第に姿を消していった。
 やがて、ゾッとする静けさがトンネルを満たした。
 トンネルの閉鎖から6ヵ月。難民たちの地獄はようやく終わった。
 凄惨な光景に目を見開き、呼吸が荒くなった。膝も振るえている。
 彼らを輪廻の輪に戻すことさえも忘れそうになった。
 正気に戻してくれたのはラミィだった。
 そうだ、自分は彼らを輪廻の輪にもどすことが出来るんだ。−彼らの苦しみを少しだけ和らげることができる。
 スレインは再び訴えた。
「皆の苦しみは見せてもらった。もう、苦しまなくてもいいんだ。輪廻の輪に戻ろう。ここに留まっていては苦しさが増すばかりだ。」
 魂たちとスレインの問答は続いた。基本的には最初に話したのと同じ事を根気強く言い続けた。
 やがて、魂はまた一つ、また一つ、輪廻に戻り始めた。苦しまなくていい場所があることを残された魂たちは発見した。
 それにつられて、頑固な魂も輪廻の輪に向かっていった。
 全ての魂が輪廻に戻るまで、それから暫く時間を必要とした。
「あの人たちは本当に悲惨な・・最期を迎えた人たちばかりだった。」
 ラミィはスレインを褒めた。
「あの、魂さんたちは苦しんでいました〜。でも、スレインさんが分かってあげたから・・話を聞いてあげたから、輪廻に戻っていったんです〜。」
「うん、・・・それは良かった。そう思っている。」
 でも、反面怖いんだよ。とスレインが言うとラミィは不思議そうな顔をした。
「どうしてですか〜」
「あれだけ多くの人の魂を僕は輪廻に戻した。でも、こんな力を悪用したりもできるんだろ?今のままでいられるかな僕は・・・」
 キシロニアでは受け入れてもらえた。だが、これからもそうだろうか?
「これからも−ずっと今のままでいられるだろうか?」
「ストッパーがそんな感じでかかるなら大丈夫や。」
「ヒューイ?」
「おっ、妖精のおちびさんも一緒かいな。」
「え?ヒューイさんは私のことが見えるのですか〜」
 この人は・・・
 いや、最初に会ったときにはヒューイから自分とは違うが、アネットとは違う、特殊な力を感じていた。もしかすると彼は−
「最初に精霊を使いこなすと。得意絶頂になって何でも出来るって思う奴もおる。」
「ヒューイ・・・君はもしかして・・・」
 思わずスレインはヒューイの肩を揺さぶった。
「うわ!?」
 ヒューイが慌てるが気にならなかった。そして、叫んだ。
「君は精霊使いなんだろ?だったら教えてくれ!僕は闇の精霊使いなのか?総本山というのは何処にあるんだ!?」
「スレインさん〜。落ち着いてください。」
「せや・・・まず、離すんや・・・」
 興奮したままだった。自分の素性が分かるかもしれない。早く言ってくれ・・・早く。
 スレインの力が僅かに弱まるとヒューイは後ろに下がり距離をとる。
「コラ〜。」
 頭を後ろからラミィが叩く。
「ヒューイさんに乱暴しちゃ駄目じゃないですか〜。」
「あ・・・ラミィ・・・」
 ヒューイが咳き込んでいる。だんだん、スレインの興奮は収まっていった。
「ごめん・・・ヒューイ」
「ああ、いいんや・・・・しっかし、人格が変わったみたいやったで?」
「僕には記憶が無いんです。」
「なんやて?」
 
 
 スレインが事情を話すと、ヒューイは彼と向かいの椅子に腰掛けた。
「せやったんか・・・すまんな、ワイも変なことを言ってもうて。」
「だから、そのヒューイ」
 この人なら何か知っている・・・しかし、彼は手を上げる。
「すまん、ワイは闇の総本山も・・・あんさんの過去も分からん。分かるんはあんさんが妖精を連れて行くほどの強い闇の精霊力を持っているってことだけや・・・そして、他の精霊の力を麻痺させていることや。」
「麻痺?」
 精霊使いの事情に無知なスレインにヒューイは言い聞かせるように言った。
「今、太陽の光が弱くなったって言っているやろ?でも、それは本当は違うんや。陽の精霊が不活発になってて太陽の光が運ばれていないんや。」
「それが、異常気象の原因?」
「せや」
 それなら
「僕がいるからー光の精霊が麻痺して、この異常が・・・」
 ヒューイは大げさに笑った。そうやって和ませなければならないほどスレインの顔は深刻だったからだ。
「考え過ぎや。あんさんが産まれてから20年も経ってないやろ?異常気象は100年以上前から続いてるんや。ーでも、麻痺させている原因が分かれば・・・な」
 もしかしたら、世界を救えるかもしれない。−光の精霊を麻痺させている秘密が分かれば、太陽は輝きを取り戻す。
「でも〜。フェザリアンさんの計画がうまくいけば、みんな助かるんじゃないですか〜?」
「そうやなあ・・・時空融合いうのがどういうもんかワイの頭じゃ理解でけへんからなあ。」
 −結局分からずじまいか・・・
 ヒューイは自分が何の精霊使いなのかは話そうとしなかった。何か事情があるようだ。麻痺のことを除いてラミィから聞いた話と大差はない。
「リーダー。」
「え?」
 突然、ヒューイは話しかけてきた。
「精霊を使うんが怖いと言うとったな。」
「うん。」
「精霊使いの中には自分の為に精霊を好き勝手に使いたがるもんもおる。ワイもそないなことを考えてしまうこともあるんや。」
「ヒューイはそうならなかったの?」
「せやけどな、自分のために使うと、結局自分自身も不幸になる・・・ワイはそう思うとる。-そういうやつが知り合いにいるからな。」
「自分自身も・・・」
「せやけど、あんさんは良くやっとる方やで。あれだけの人数を成仏させるなんて、並の精霊使いにはできんことや。それに魂は感謝しておったやろ?」
「そう・・だね。」
 魂たちは輪廻に帰る瞬間、僕にむかってお礼の言葉をくれた。-それは素直に嬉しかった。
「その気持ちを忘れんことや。」
「分かった。ありがとうヒューイ。この力使い方を間違えないようにするよ。」
「その意気や。」
 話が一段落した頃、アネットがロビーに出てきた。
「ん?あんた達何をやっているのよ?フェザリアンの計画のことでも話していたの?」
「まあ、そんなところ。」
 と、スレインは曖昧に答えた。ヒューイの反応も似たようなものだ。
「もう遅いし、もう寝たほうがいいわよ。」
「ああ、分かっている。」
 そうだ、あの悲惨な光景を見て少し弱気になったのかもしれない。でも、僕たちは進まなくてはらなない。キシロニアの人たちをローランドの難民のようにするわけにはいかないのだから。
 -自分の記憶のことを忘れられるからという気持ちがどこかにあることも否定できないけれども。
 
 夜が明けた。
 この土地を旅をするのに雨具は必須だ。それを身に付けると、皆に出発を告げた。
「モニカ、フェザーランドへのトランスゲートっていうのは大陸の南にあるんだよね?」
「そうよ、心配しないで。位置のほうは私の方で把握できているから。」
「うん、期待しているよ。」
 雨の中を一行は進んでいった。この土地で食料を得るのは不可能だった。モンスターの肉で飢えを凌ぐという方法は取れない。ここに現れるのはアンデット系が大半であったからだ。その種の生き物でなければ生きていけないそれが今のローランドだった。
 ポーニア村で目一杯、食料品を買い込んだの正解だった。
 土は相変わらずぬかるみ、かつての面影をうかがうことはできない。
 皆何も言わずに道なき道を進んでいった。ぬかるみの中では普通の道を歩くスピードの半分以下の速さでしかない。
 どのくらい歩けはいいんだろうと不安にもなってしまう。
「ふう・・・・」
 モニカが息をつく。
 皆の体力にも気を配る必要があった。無理はしないことだ。それがここに来てからスレインが学んだことだった。
「きゃ!?」
 アネットが泥濘にはまってしまった。
「大丈夫?」
 アネットを引っ張りあげながらスレインは言った。
「休憩しようか。あそこの岩陰で。」
 右手に岩場があり、一部が雨しのぎになっていた。あそこなら雨を避けられる。行程のほうもあと2日もあればトランスゲートまで行けるだろう。多少の余裕はある計算だ。
 休憩に入ってから皆が一息ついたころ、スレインの視界に何かが入ってきた。
 なんだ?あれは?
 スレインは目を凝らした。人影らしいものが見える。
 モンスターか?
「何か来るよ。」
 皆に注意を促した。アネットなどはいつでもリングウェポンを出せる体勢を整えていた。
 ヒューイも目を細めた。
「せやな、あれは人のようやな。こんなところに珍しいで。」
 敵でなければいいが・・・と思いながらスレイン達は集団が通り過ぎるのを待った。もっとも、万一に備えて準備は整えている。
 次第に近づいてくる集団は人間のもので鎧を着た重歩兵7人魔術師が3人で構成されていた。魔術師のうち一人はかなり強力な魔力の持ち主で、防護服も最高クラスのものを身に着けていた。この集団のリーダーなのかもしれない。
 そして、集団は通り過ぎていく。こちらのことが見える距離だが、関心をしめしていない。
 後ろから悲鳴があがった。
「きゃ!?」
 モニカが足を滑らせたらしい。
「大丈夫?モニカちゃん。」
「ごめんなさい。」
 モニカはアネットが伸ばした手を取った。その時、彼女の小さな羽根が露になった。
それに対する意外な反応が集団から返ってきた。
「フェザリアンだ!追っ手だぞ!!」
 モニカがフェザリアンであることに彼等は異様な反応を見せた。武器を手にこちらに向かってくる。攻撃してくる気だ。
「ちょっと!何なのよ!?」
 アネットは狼狽した声を上げる。それは皆も同じだ。襲われる理由が分からない。
「くうっ!」
 あっという間に迫ってきた歩兵が斧を振り上げる。それを自前の武器で必死に受け止めた。
「おい!何をするんだ!!僕達は敵じゃあ・・・」
「何を白々しいことを!!」
 相手は問答無用だった。
 モニカがフェザリアンであること。何を恐れている?
 どっちにしてもこのままじゃどうにもならない・・・
 皆で一斉に退却−そんな考えも頭に浮かんだが、モニカの言葉がそれを断ち切った。
「あれは!?」
 モニカが切迫した声で言った。
「時の宝珠!?あれがないと時空融合計画が実行不可能なのに!?・・・もしかして貴方たちは盗んだの!?それを!」
 リーダーと思しき魔術師ーおそらく女性だろう−の手にまるでクリスタルのようなものが握られている。あれが、時の宝珠のようだ。
「あれがないと、フェザリアンの計画ができんのかいな?」
 モニカは遠慮なしに投げナイフを投げ、重歩兵をひるませた。
「あれが、計画の要になるものよ!」
 −じゃあ、あれがなくなれば・・・計画が・・・!
「取り返そう!みんな!」
 あの連中を倒して、時の宝珠を取り戻さなくては!もしかしたら時空融合計画は最後の希望かもしれないのだ。
「そうと、分かれば遠慮しないわよ!」
 アネットのレイピアの一撃が敵歩兵の鎧を貫いた。
「承知したでえ!!」
 ヒューイは手数の多い攻撃を活かして、敵を翻弄している。
 スレインは剣を構えなおし、斧を持った戦士に向かっていく。
「おのれ!!」
 相手が斧を繰り出す瞬間を見て、それが何処を狙っているかが分かった。その感覚に従って体を動かすと、斧がすぐ横を通り過ぎる。
「そこだ!!」
 大剣を横に振る。相手の鎧が砕け、絶叫が聞こえた。重歩兵は前のめりに倒れた。
他の仲間にも目を配ると、アネットもヒューイも切り結んだ敵を屠っていた。
 −待てよ・・なんでこんなに簡単に・・・
 敵の装備は明らかに正規軍のものだ、その割には簡単に勝ちすぎている。
「くそう!!」
 剣士が武器を振るったが、その動きは鈍い。疲労が蓄積しているのか・・・だから、こんなに動きが緩慢なのかもしれない。
 ならば−
 スレインは攻撃をかわしつつ魔法の詠唱に入った。それをアネットやヒューイが援護してくれた。
 魔法は直に準備を完了できた。
「スリープ」
 ごく簡単な相手に眠気を誘う魔法だったが、疲労した相手には効果は抜群だった。
流石にリーダーの魔術師には効果はなかったが、それ以外の敵兵はバタバタと倒れ、心地よさげな寝息をたてている。
「今だ!!」
 スレイン、ヒューイ、アネットが剣を構えて突っ込んだ。
 戦闘が始まってからあの魔術師は何かを詠唱してる。強力な魔法かもしれない。
 今、ダメージを与えておかないと−
 しかし、一刻を争う競争は寸前で魔術師が勝利した。
 彼女は何事かを呟き、手をかざした。
光が巻き起こり、思わずスレインは目を閉じた。
 ?
 体が痺れている。だが、そのほかに異常はない。
 目を開けると女魔術師は立っているだけだ。
 −魔法が失敗したのか?
「さあ、道をお開けなさい。」
 彼女はそう言った。
 何を言っている?と、スレインは思ったが、後ろを見た時その意味が分かった。
「みんな?」
 アネットとモニカがうつろな顔で武器をダラリと下にしている。そして、彼女の言葉に従い道を開けた。
「これは・・・みんな!あの人は何か術を使っている!!」
 虚しい呼びかけだった。
 アネットとモニカは完全に女魔術師の術中に落ちていた。
 ヒューイならばこの術を見破っているかもしれないと、彼を見る。しかし、ヒューイは彼女の言うことには従っていないが、立っているのが精一杯という状態だ。
 −くうっ・・・
 スレインの口から絶望を含んだ呻きが聞こえた。
 だが、女魔術師も困惑していた。
「お前・・・私の月の術を破るとは・・・・いや、それ以前にお前の波動は・・・」
 女魔術師の正体に気づいたのは妖精だった。
「スレインさ〜ん。あの人は月の精霊使いです〜。月の力で人を操ることができるんです〜。」
「−そういうことか・・・だったら納得がいくな。」
「・・・それに妖精も一緒とは・・・」
 まあよい、と女魔術師は笑みを浮かべる。自分の正体が暴かれたことをあまり気にしていない。いや、皆殺しにして、口封じすればよと彼女は考えていた。
「お前たち。その男を攻撃しろ。」
 なっ―
 お前たちとはアネットとモニカのことだった2人は武器を構え、スレインに向かってくる。
「くうっ・・・」
 2人に刃を向けることが出来るはずもない。そして、気絶が狙えるような相手ではない。
 ならば、逃げるしかない。
「ラミィ。精霊の力が及ぶ範囲はどのくらいなの?」
「種類にもよりますが、そんなに大きくはないのです〜。」
 多分、効果範囲は200〜300mくらいだと妖精は言った。
「了解。」
 その範囲外に逃げ出すしかない。
 モニカの投げナイフは大気を切り裂いた。距離が遠いせいか貫通力は弱く、鎧が弾くか外れるばかりだ。それにヒューイも置いていけない。彼と一緒に逃げにかからなくては・・・。
 我が友スレイン。まあ、よろしい。常に冷静な行動を心がけ給え。
 ハインツ隊長。今の僕にはそれは無理です。
 心の中で苦笑してからスレインは詠唱していたアイスバレッドをアネットとモニカの足元に放った。泥が飛び2人は一瞬ではあるが視界をさえぎられていた。隙が出来る。
 スレインは走り出した。危険だが、2人の間を突っ切るしかない。その狙いは図に当たりそうに見えた。反撃は来ない。
 行ける−と思った瞬間、その予想は打ち砕かれた。右側面に赤毛の少女が忍び寄っていた。
「!?」
 狙いすまされたレイピアの一撃が脇に直撃した。
「うわ!!」
 オーガーさえも一撃でしとめたことがあるアネットの剛剣に耐え切れる筈が無かった。なす術も無く地面に倒れる。
 くそっーこのままじゃあ・・・!
 スレインは顔を上げる。そこにはフェザリアンの少女がナイフを構えている姿があった。
「スレインさ〜ん!!」
 ラミィの悲鳴に近い声が聞こえてくる。
 終わりだ・・・避けられない。
 思わず目を閉じ、最後の苦痛に備えた。だが、不思議と時間が経っても苦痛はやってこなかった。
「ス・・・スレイン!大丈夫!?」
「ごめんなさい!ごめんなさい!!」
「リーダー無事か!?」
 帰ってきたのは仲間たちの声だった。
「モニカ、アネット・・・それにヒューイも・・・」
 どうやら、術が解けているようだ。だが、どうして?
 回答は向こう側から聞こえてきた。
「シモーヌ・・・その方々を開放なさい。」
 声の主は女性だった。この大陸ではまず見ない白と赤を貴重にした服が雨具の下に見える。そして、彼女からはヒューイと同じような力が感じられた。そう、彼女も精霊使いなのだろう。
 女性は巨大な弓矢を魔術師に向けていた。
 
 
(つづく)
更新日時:
2011/09/28 

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Last updated: 2014/3/16