2      バーンズ議長は決断した
 
 
 
 アグレシヴァル王国宰相キーリンズ・ロドノフはあまり機嫌が良くなかった。
 国内の飢饉は一向に収まる気配がなく、以前から軍に命じているキシロニア侵攻は、略奪のためのヒットランエンドの手ぬるい攻撃に終始している。
 機嫌が悪くならないほうがどうかしている。
 それに、彼は軍総司令ゲルハルト・オーベルのことも快く思っていなかった。
 個人的に合わないということではなく、ゲルハルトは国王の大権である外交、軍事を掌握し、軍が彼の私物になりつつあるという公憤からのことだった。
 そのゲルハルトの部屋の前に宰相は立っていた。
 扉を開くと、ゲルハルトは書斎にある大きな机で地図を見ながら今後の策を練っていた。
 口元の白髭、老いても長いままの灰色の髪。その目にはかつて王国最強の騎士と謳われた頃と変わらぬ不屈の闘志を湛えていた。彼が優秀な指揮官であることに宰相も異義はなかった。
「これは、宰相殿。今日はいかがなされました?」
「国王陛下のいいつけで来た。」
 考えられる限り機嫌の悪そうな声でキーリンスは言った。
「キシロニアへの攻撃・・・少々手ぬるいのではないですか?我が軍の総力をもってすれば、落とせぬ国ではありますまい。」
 ゲルハルトは頷いた。
「しかし、我が国が本格的に仕掛ければ、連邦は農村の男たちを戦場に刈りだすでしょう。そのようなことになりますと・・・」
 当時の軍隊はリングマスターのみで編成されるのが常識であった。しかし、キシロニアはその常識を破ってきた国家であった。リングマスターに恵まれない彼等はそうでないものも一律に徴兵し戦闘員として戦場に送っていた。彼等はほとんどが農夫達だった。
「確かに、連邦の収穫は減るかも知れぬ。だが、それを待ってからでは遅い!」
 この男は状況が切迫していることを理解しているのか?
「このまま、冬がくれば、国民の半数は冬を越せないのですぞ。」
 そうなってしまえば、最早戦争をする力は残らない。するなら力が辛うじて残っている今しかない。
「国王陛下や宰相閣下のご心配はごもっともです。しかし、このままキシロニア侵攻を行えば、我らの損害も大きなものになります。そうなると、帝国が圧力をかけてきた場合、対処できなくなる可能性があります。―外交の環境が整っていないのです。しかし、策は打ってあります。それが終われば・・・」
「・・・・・うむ、指令殿がそこまでおっしゃるなら、陛下にはそのように申し上げよう。」
「成功の暁にはキシロニアもついでに帝国も我らの手に・・・」
 それを聞くと、キーリンズは露骨に顔をしかめた。
 この男は何か勘違いしているのではないか?どこか、戦争をゲームとして楽しんでいる風がある。
 我々は国民が飢え死にするのを防ぐために戦っているのであって、この大陸を制覇するために戦っているのではない。
「戦争は貴方のゲームではないのですぞ。それをお忘れなきように。」
「わかっております。」
 頭を下げるゲルハルトを一瞥するとキーリンズは部屋を出て行った。
 
 宰相が去ると、ゲルハルトは再び視線を地図に戻した。
 全く、あの宰相め。ワシの計略に難癖をつけおって。
 ゲルハルトもキーリンズを嫌っていた。
 だが、宰相のことをそれほど気にしていない。奴の政治力では自分を倒せない。そう確信している。
 軍の忠誠を受けているゲルハルトの力はそれほどまでに大きいのだ。
 彼は思考を別のことに向けた。戦力面のことではなく、朝に報告のあったキシロニアに現れた手練の戦士についてだ。
 彼とその属する小隊の活躍で略奪部隊にかなりの損害が生じたというのだ。本来ならこのような小事は総司令官が確認すべき情報ではないのだが、その戦士の似顔絵がゲルハルトの関心を呼んだ。
「ふむ、一度調べさせるか・・・」
 
 アグレシヴァルの度重なる襲撃を受けつつあったキシロニア連邦は軍備増強を開始した。
 即ち、連邦常備軍は直ちに戦闘態勢に入り、民兵の募集が始まった。
連邦は民兵を防衛の中核に位置づけていた。常備軍は僅か4000人程度に過ぎないが、有事ともなると民兵により増強され2万以上の戦力となる。
 これに対し、アグレシヴァル軍は約5万。半分以下の戦力だが、キシロニアへの進撃ルートは山脈で分断される箇所が多く、防御のし易い地勢であり、それを考慮すれば勝算は十分にある。
 さらに、各地には見張り櫓が増設され、監視体制の強化が図られた。
 ヴォルトゥーンの北西にある見張り櫓もその中の一つだった。その守備についている第1126監視小隊が、スレインの今の所属だった。
 再び倒れたスレインは一度連邦の首都ヴォルトゥーンに運ばれ、そこで療養した。そこでアネットの父は連邦の最高指導者であることを知ったのだった。
 回復は早かった。
 退院するとスレインは恩返しの意味もあってキシロニアの民兵に志願した。何故、皆そんなによくしてくれるのか分からなかったが、それが純粋な善意であることを知っているような気がしていた。
 アルフレッド議長にも
 アネットにも
 そしてキシロニアという国にスレインは懐かしさを覚えていた。
 もしかしたら、自分はこの国の住人なのかもしれないと思い始めていた。
 ―いや、本当はそう思いたいだけだ。
 自分の素性は相変わらず分からないけれども、周りの人々が余りに優しかったから。
ゴトン!
 と、馬車が揺れた。未知が未舗装なのでたまにこのような揺れはあるのだが、今回のものはやや大きかった。
 スレインは目を覚ました。
「んんっ・・・」
 と、言ってもそれは寝惚けなまこでともすれば、二度寝してしまいそうだった。
ゆっくりとした動作で周りを見ると、彼の属する小隊のメンバーは皆寝入っているようだった。
 外を見ると、朝には近いようだが、まだ辺りは暗い。
 ・・・もう一度寝ようかな・・・・
 と、思ったスレインの目に唐突に「崖」が映った。
それを見た時、彼はその崖で起こったことが頭に浮かんだ。
 ―そうだ、あそこで僕は初めて幽霊を見た。
 思えば、不思議な体験だった。
 近くの村から食料を調達してきた帰りに、あの崖を通りかかると、そこに3人の男女がいた。
 一人は赤毛に白い服を着た女性。彼女は子供なのか銀髪の男の子を連れていた。
 そして、もう一人は忘れもしない。自分を崖から突き落とした悪魔のような男。
会話はかすかにしか聞こえなかった。
「ロベリカの実を・・・・」
「ここで見張っていた正解だった・・・」
 しかし、緊迫感のある会話であることは分かった。あの男は殺気を帯びている。
助けに入ろうとした時にはもう遅かった。男の子は逃げられたが、女性のほうは鎖鎌の一撃で悲鳴を上げて倒れた。
 長髪の男がこちらに気づいて、襲い掛かってきた。それをなんとか倒して、僕は彼女に駆け寄った。
 息も絶え絶えの女性は薬の製法と、バーンズの家に行ってくれという伝言を残し、息絶えた。
 しかし、ちょっと視線を離すと、彼女は消えていた。長髪の男も同じだ。
 それが、スレインが死者の魂を見たのはそれが最初だった。
 それから、任務の中で僕は死者の魂を何度か見てきた。彼等は何事かを自分に託し、それを叶えてやれば、安らかな顔を残して消えていくのだった。
 思い出したせいか、目が少しだけはっきりしてきた。
「目が覚めたのかね?」
「ハインツ隊長・・・」
 小隊長のハインツ隊長だった。
 年齢は30歳。細身で戦士ではなく、魔術師であった。もとは南の大国シェルフェングリフ帝国の出身で、今でも午後3時のお茶は欠かさない。
 隊員と気心が知れれば、全て「わが友」と呼びかけてくる芝居がかった人物だが、本人は至って真面目である。推理力に優れ、部隊指揮は一流といえた。
「この崖だったのだね。君が死者を見たというのは。」
「隊長はどう、思っているんですか?僕の話を」
「科学的には証明できない話だが、君が死者から聞いたという言葉が事実で、今回の成功があったのは間違いない。」
「―ここにいる皆もそうですけど?怖くないんですか?僕のことが」
 今までどのメンバーにも言えなかった質問だった。この小隊のメンバーとも打ち解けて大分時が経った。それを壊してしまう気がしていたから。
「わが友スレイン。この隊で君の事を怖い人間と思っている者はいないよ。」
 君が来て始めてのころの失敗や、普通のそう、温和といってもいい君を見ていれば、怖いとは思わないよと、ハインツは笑った。
 期待していた回答にスレインは少しだけ心が軽くなるのを感じた。
「記憶のことも同じだ。何か分かったら迷わず、誰かに相談したまえ。」
「ありがとう・・・ござ・・・」
「・・・・寝てしまったようですね。」
 と、それまで横になっていた副隊長のマリアが言った。
「起こさないのかね?」
「まだ、首都までは時間がありますし。―これから新しい任務もあるでようから。」
 クスリと笑うと、マリアはスレインに毛布をかけた。
 彼女は本業は医者だが、ヒーラーとしての能力もある。ハインツが好奇心のままに暴走するとそれを止めることの出来る貴重な人物で、部隊の守護者のような女性だった。
「新しい任務か・・・それが、スレインの記憶を戻すとこになるといいのだが・・・」
「そうでしょうか?その記憶がもしも、辛いものだったら。」
「それでも、何も分からず悶々とするよりもマシだろう。」
「・・・そうですね。」
 馬車は彼等を乗せながら、首都に向かっていた。
 第1126小隊は国内に侵入し、村々を略奪しようとしていたアグレシヴァルの襲撃部隊のアジトを発見し、撃破した。その功績を称えられ、勲章が授与されることになったからだ。
 そして、さりげなく知らされていた。
 それは小隊の各員に新たな任務が与えられるということだ。
 
 太陽が完全にあがりきり、皆が仕事をし始めた頃、馬車はヴォルトゥーンにある連邦軍参謀本部の前に到着した。
「う〜ん、着いた・・・」
 体を伸ばすと、馬車の中での窮屈な感覚から開放される。
「けっこう、疲れるな。」
「仕方ないよ、最前線の近くから首都まで来たんだもの。」
 と、隊員のウィルフレッドとローザが言った。
「さあ、諸君。本部に行くとしよう。」
 参謀本部といってもそれほど立派な建物とは言えなかった。どちらかと言うと図書館に近いような外見だった。
「こちらです。」
 警備兵の案内する先にはロナルドが待っていた。
「よう、皆来たな。」
「お久しぶりです。ロナルド隊長。」
 ハインツが敬礼し、スレインたちもそれに習うと、ロナルドも微笑んで答礼した。
「勲章のほうは議長のほうから一人ひとり手渡される。―そこで、各人に新しい任務が与えられるだろう。」
 スレインたちは顔を見合わせた。
 ハインツは以前から、軍の上層部とやり取りがあったらしいことは知っていたが。
「では、まずはハインツからだ。お前もそろそろ年貢の納め時だぞ。」
「私は出来れば、現在の仕事が天職と思っているのですが」
「そうもいかんさ。さあ、総司令官室へ行けよ。」
 ハインツは首をすくめると、総司令官室に入っていった。
「お前たちも順次待て。」
 勲章かあ・・・
 スレインは複雑な気分だった。誇らしいという素直な気持ちもあったが、この国の人間かも分からないのに、本当にもらっていいのかという気持ちもあった。
 ウィルフレッドに肘をつつかれたはその時だった。
「おい、スレイン。」
「ウィル」
「表情暗いぞ。堂々としろよ。お前は異邦人じゃないんだからな。」
「・・・・ありがとう」
 と、小声で返すと、僚友の忠告に従って気張った顔を作った。
 そんな様子をロナルドは微笑みながら眺めているのだった。
 スレインが呼び出しを受けたのは。ウィルフレッドが呼ばれた次だった。
 
 
「スレイン・ヴィルダー、入ります。」
「入りたまえ。」
 ドアを開けると、総司令官室は意外に小さく感じられた。簡素なテーブルと資料が収められた本棚が目に付く。腰掛けていたいた男が立ち上がった。
 アルフレッド・バーンズ
 アネットの父親で8年前から連邦議長に選ばれ、この国を切り盛りしてきた。困難に出会っても常に投げ出さず、ユーモアを忘れない彼の人気は上場だった。
 部屋には彼のほかに、アネットや彼女がおじさんと呼んでいたマーシャルやロナルドの姿もある。
 スレインにとっては顔見知りであったが、彼等はキシロニアの頭脳というべき人々であった。もっとも個人的には3人とも気さくな人物であまり、彼等がしかるべき地位にいることを感じさせない。
「スレイン」
 と名前を呼び、バーンズ議長は笑顔を向けた。
「変わりはないか?今回の武勲は聞いている。まずは、この勲章を受け取ってくれ。」
 議長は手にしていた勲章をスレインに授与した。通称「戦士の勲章」と呼ばれる、勇戦著しい者に与えられるものだった。
「ありがとうございます。」
「うん。私の娘は大変な英雄を助けたわけだ。」
 そんなことを言われると照れてしまう。スレインは顔を必死に平常に保とうとしたがあまり効果はなかった。
「・・・・ところで、スレイン。君の新しい任務なのだが・・・」
「はい。」
「アネットの護衛を頼みたい。」
「アネットの・・・ですか?」
 スレインはアネットのほうをチラリと見た。彼女は既に知らされているのか、いつもと変わらない表情だった。
「そうだ。我々がアグレシヴァルに狙われているのは君の知っているとおりだ。そこで、南の大国、シェルフェングリフ帝国と手を結ぼうと考えておるのだ。」
 帝国では昨今の異常気象で食糧危機が叫ばれている。食糧支援を条件にすれば同盟を締結できる可能性は高いと見ていると、議長は言う。
「同盟を申し入れる会議にアネットも出席させることになった。私の代理としてね。―もちろん、特命全権大使はノエルというものがいる。実際の交渉は彼がすることになるがね。―だから、帝都までの娘の護衛が君の任務となる。」
 それは、キシロニアにとって重大な決断だった。この国はこれまで巧みな外交と、人口にしては強力な軍事力で中立を維持し、侵略を抑止してきた。それが、他国と同盟関係に入るというのは決して軽い決断ではない。それも皇帝が崩御し、政情不安の帝国と同盟関係に入るのは賭けの要素も強いものだった。
 だが、アグレシヴァルが死に物狂いの全面攻勢をかけてくれば現在の軍事力では抑えきれないのもスレインは分かる気がした。
 それよりもスレインが戸惑いを覚えたのは他のことについてだった。
「ま・・・待ってください。議長。」
「娘の護衛では不服かね?」
「いえ、そういう意味ではなく・・僕は異邦人です。・・・その僕にそんな重要な任務を?僕はもしかしたら・・・」
 貴方たちの敵かもしれないんですよ?記憶を失っているだけで。
 最後の一言は言えなかった。
 勲章のことと合わせて、重要な仕事を頼まれて、どこかに嬉しい気持ちもある。でも、記憶のない人間、素性の分からない人間に実の娘の護衛を頼むといのは。
「スレイン。」
 横からロナルドが口を挟んだ。
「君の現在の所属?」
「は・・はい。第1126小隊です。」
「それが、お前の出自だ。」
「え・・・」
 ロナルドはスレインの肩を思い切り叩いた。
「4ヶ月は決して短い時間じゃない。小隊の皆もお前を仲間としているんだ。お前の過去は問わない。それとも、私を殺したがっているのか?」
「いえ!そんなことはありません!」
「なら、それでいいじゃないか。多分、小隊のメンバーもそう言うと思うがな。」
「ロナルドさん。」
 議長が言った。
「君には力がある。それをこれまでと同じように我々の為に使ってくれ。」
「議長・・・」
「何、深刻な話をしているのよ。」
 少し重い空気に反攻を試みたのはアネットだった。
「だいたい、アンタが敵でもアタシは平気よ。自分の身は自分で守るもの!」
 アネットは指を差し出し、問いただした。
「アタシの護衛を引き受けるの?引き受けないの?下らない前置きはいいからイエスかノーで答えなさい。」
「ひ・・・引き受けます。」
 アネットの強気に飲まれるようにスレインはあっさり答えた。
「うん、それでよし。」
 と、議長は笑顔で応じると、ロナルドが大まかな説明を始めた。
「よし、では簡単に説明しよう。」
 ルートはヴォルトゥーンからイオリアス街道でルビルア川大橋をわたり、国境の町シュワルツハーゼに入る。そこからシュバルツハイム街道で一直線に帝都へ―これは、ごく標準的なものだった。
「俺が指揮する特殊部隊が先発し、安全を確保。その後通常の護衛と共に、ノエル大使とアネット達が続く。まあ、簡単に言ってしまえばこんなところだ。あまり大所帯で動くとアグレシヴァルに感づかれる。アネットの護衛はお前一人だ。頼むぞ。」
「はい。」
「出発は2日後だ。それまでに準備をしておけ。―議長。私はこれで・・・」
 ロナルドは一礼すると退出した彼自身もしなくてはならない準備があるのだろう。
「うん、そちらも準備をよろしく頼む。―ああ、アネットとスレインは残ってくれ。」
 何だろう?アネットの顔を見ると彼女も知らないのか首を横に振っていた。
「何?お父さん?」
「帝國との交渉が終わったら、やってもらいたいことがある。」
 アルフレッドは窓から町の様子を見やった。
 豊かな街だ。
「見てくれ。この異変にも関わらず、この国はまだ人々が幸せに暮らしていける。だが、このまま異変が進めばここもいずれはローランドのようになってしまうかもしれない。それを防ぐには異変のない土地を今のうちに確保しておかなければならない。」
「移住先を探せって言うこと?」
 娘の言葉に議長は頷いた。
「アタシは嫌だな・・・・ここにはお母さんだって眠っているのに。」
 少し沈んだ声だった。
「私だって同じだ。だが、私には議長として皆の生活を守る義務がある。」
 自分に言い聞かせるような口調で議長は言った。
「それに、まだ移住すると決まった訳じゃない。異常気象が終わってくれれば、その必要も無くなるんだからな。これは、あくまで保険だ。」
「・・・そうよね。」
 アネットは気を取り直して言った。
「アタシ、準備してくるね。新しい防具もリングも選ばなきゃ・・・それに服もそれなりのものを持っていかなきゃだからね。じゃあ、スレイン。2日後に街の大門で落ち合いましょう。」
「ああ、分かったよ。」
「では、よろしく頼むぞ。二人とも。」
 素直に「はい」と答えるスレインを見てバーンズ議長は親友の面影を思い出した。彼がこの位の年のとき、スレインと瓜二つだった。親友は強い男だった。彼と重ねるのはいけないかもしれなが、と重いながらも議長はそう思わずにはいられなかった。
 
「お、スレイン帰ってきたな。」
「皆・・・・待てってくれたのか・・・」
 参謀本部の外で1126小隊のウィルフレッドとクリスが待っていた。と、言っても彼等も既に新しい配属先が決まっているのかもしれないが。
 ウィルフレッドは斧の扱いが得意な重戦士でスレインが始めて会ったときには対抗心をむき出しにしていたが、今では頼りがいのある仲間だ。
 クリスは隊長と副長を除けば隊の中で最年長だが少し気弱な剣士だ。技能はそこそこではあるが、ムードメーカとして隊にはいなくてはならない人だ。スレインが一番最初に馴染んだのも彼だった。
「まだ、新しい配属になるまで時間もあるし」
「あれ、ハイツン隊長達は?」
 ハインツ隊長、マリア副長、それに弓兵のローザの姿がない。
「3人はもう、新しい任地に行ってしまったよ。」
「そっか」
「じゃあ、飲むか。」
 と、ウィルが言った。それに答えないスレインとクリスではなかった。
 3人が向かったのは新市街地に出来た酒場だった。
「かんぱーい!」
 乾杯から、宴が始まった。
 酒は基本的には禁止なのだが、ハインツ隊長の化学実験の副産物であるアルコールを嗜むくらいのことは不問であろう。
 ウィル、クリス、ローザの3人とマリア副長は首都警備部隊に配属された。この部隊は各防衛ラインが破られた時に投入される総予備隊だ。
 そして、ハインツ隊長はなんと参謀本部に入ることになった。
「スレインも極秘任務か〜じゃあ、寂しくなるなあ・・・」
「そうだな。でも、それはスレインの戦闘技能が認められたとうことだよね。」
「そうだよな、悔しいけど俺よりすげえんだから。それは、素直に喜べよな。」
「ああ・・うん。」
「ま〜た、お前のことだから、自分の素性が知れないからとか言ってたんだろ。」
「・・・・・」
「図星。」
「まあ、それは仕方ないことだが・・・それでも、もう卑下するのはやろよな。」
「そう、それよりも私たちはスレインの帰り待ってるから。」
「危険がありそうな任務だしな。」
「どうかな―はっきりとはわからないけど。」
 確かにアグレシヴァル軍の襲撃はありうるが、反面大規模な戦闘に巻き込まれることはまずない。これまでの1126小隊も直接戦闘にさらされることは少なかった。
 もしかしたら、難易度は変わらないかもしれない。
「油断は禁物」
 嗜めるように言うクリスにスレインは苦笑しながら答える。
「分かっているよ。」
「―ま、ともかく無事に帰ってこいよ。記憶が戻っても、必ず、ここには一回帰ってこいよな。」
「―ありがとう。」
「って、お前なにニヤニヤしてるんだよ。」
「―いや、心配してくれるのは嬉しいかなあって」
「俺は唯、無事に帰って来いと―」
「それを、心配っていうんじゃないかな。」
「クリス―お前まで〜。」
 3人のそれぞれの無事を祈るための宴はそれから暫く続くことになった。
 
 
 
(つづく)
更新日時:
2011/05/22 

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Last updated: 2014/3/16