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7   地球防衛軍の勝利
更新日時:
H20年6月29日(日)

この文章は、古典的アニメ「宇宙戦艦ヤマト」に関する雑文です。
 
 
 
 
はじめに
 西暦2201年地球防衛艦隊は地球侵攻を試みる彗星帝国第7艦隊と衝突、これを撃滅した。これは地球が体験した2度目の対異星人戦争での一コマである。
 この戦争−対彗星帝国戦争−は不思議な戦争である。この戦争を記録した文書、映像資料は2つの異なる戦争経過を示しているからである。
 彗星帝国の来襲と危険性を知らせるメッセージを送り続けるテレザート星のテレサ。
 そのメッセージを信じ、地球政府に反抗してまで航海を始めた地球の戦艦ヤマトは彗星帝国の地球侵攻計画をテレサより知らされた。
 地球はこの情報を得て彗星帝国との対決を決意した。
 ここまでは、同一であるがここで資料が伝える結末は分岐する。
 
Aパターン(通称「さらば宇宙戦艦ヤマト」)
 木星において地球艦隊主力が彗星帝国艦隊を撃滅。彗星に対し波動砲一斉射撃を敢行するが彗星は全く損傷を受けず、地球艦隊に突入、超重力により艦隊は粉砕された。
 彗星側はここで地球に降伏を勧告。対応に苦慮する地球であったが答えを出せぬまま回答期限は過ぎ、彗星は地球に進撃を始める。地球が砕かれようとする刹那、戦艦ヤマトが立ちふさがり、波動砲を彗星の弱点「渦の中心核」に撃ち込んだ。これにより、彗星のガス帯を取り払い、さらに現れた彗星帝国本体も最終的にはヤマトの特攻により破壊された。
 
Bパターン(ヤマトU)
 地球艦隊は土星圏に集結、彗星帝国艦隊を迎撃、苦戦の末これを撃滅した。また、彗星に対しても波動砲一斉射撃を加え、そのガス帯を剥ぎ取ることに成功した。
 だが、彗星本体の猛攻撃の前に艦隊は壊滅する。彗星帝国は地球に対し無条件降伏を勧告。地球はこれを受け入れる。だが、生き残っていたヤマトは最期の望みを掛けて彗星帝国に攻撃を仕掛けた。
 彼等は甚大な被害を出しつつも彗星本体を破壊に成功した。しかし、彗星の残骸の中から帝国崩壊に備えて造られていた大戦艦が姿を現す。ヤマトは戦闘能力を失っていたが、テレサが自分の命と引き換えにこれを葬った。
 
 また、この2つの経過には細部で違いが多い。
 例えばAパターンでヤマト艦長を務める土方竜はBパターンでは地球艦隊総司令として登場していたりしている。
 このような2つの戦争経過が示されているが、今回はAパターンでの地球と彗星帝国の艦隊決戦を取り上げたい。
 この戦闘は先の対ガミラス戦争で敗退を繰り返した地球が手にした初めての艦隊決戦での勝利だった。これはBパターンも同様であるが、Bパターンの艦隊決戦は展開が劇的であり、多くの識者が分析、叙述を試みている。
 しかし、Aパターンのものにはそれがない。
 確かにそこには戦術的な機微はないのかもしれないし、艦隊の傲慢さもあったのかもしれない。だが、これは紛れもない勝利の記憶であり、それを公正に評価することも必要ではないかと思うからだ。
 
 
 
戦闘を記録した資料
 
 この艦隊決戦を描くに当たり使用した資料は次の3点である。
 @映像資料「さらば宇宙戦艦ヤマト」
 A文章資料1「小説:さらば宇宙戦艦ヤマト」(著者:若桜木虔)
 B文章資料2「小説:さらば宇宙戦艦ヤマト」(著者:西崎義展)
 @の資料は当時の地球側と彗星帝国側の残された映像を編集したものであり正確性が高いものであるが、ところどころ編集されていることに留意する必要があるように思われる。
 Aの資料は戦艦ヤマト艦長代理 古代進と森雪の視点を生き残ったヤマト乗員の証言で再現したものであり、再現された2人から見た艦隊決戦の様子が伝えられている。
 ヤマト乗員のみに証言を頼っているせいか、ヤマトを反逆者集団と看做した地球政府及び地球防衛軍に対する否定的評価が多く見られる。艦隊決戦での地球艦隊の作戦行動も稚拙であったとしている。
 Bの資料も基本的に生き残った乗員の証言をから再現されているが、ヤマト乗員だけではなくその他の地球艦隊や彗星帝国艦隊の生き残りからの証言も生かされているようで、戦闘場面では2つの指揮官の目から見た艦隊決戦の様子が描かれている。Aと同じく地球政府、軍首脳への否定的評価は相変わらずで一部ではより厳しいとも見える。しかし、艦隊決戦に関しては地球艦隊の行動は深い思慮に基づいたものと主張している。
 ここでは映像資料を軸に戦闘経過を再現したい。
 
 
第1段階 「艦隊集結」
 
 太陽系に侵攻してきた白色彗星の前衛艦隊は各惑星を破壊しつつ地球に近づいていた。
 これに対し、地球は艦隊戦力を月面基地に集結した。この決定は地球以外の太陽系惑星に人類があまり移住していないことを意味する。もしも、他の惑星にかなりの民間人が住んでいたとすればこのような決断は出来なかったであろう。
 艦隊戦力は以下の通りである。
 
戦艦   36隻
巡洋艦 81隻
駆逐艦 多数
 
 補給艦を含めれば300隻を超えるとする説もある。いずれにせよ堂々たる大艦隊であった。
 また、各艦の戦闘能力も強力である。
 ガミラス戦を経てヤマトで試された手法は全ての艦船に行き渡った。
 波動エンジンとその動力を利用した波動砲。
 ワープ航法。
 ショックカノンを初めとする通常武装。
戦艦は旗艦アンドロメダを初め、全戦艦に拡散波動砲が装備され、ヤマト型で威力を発揮したショックカノンを主砲として採用し、艦載機も少数であるが搭載されている。
 ショックカノンはヤマト型が証明したとおりガミラス駆逐艦数隻を一挙に撃沈する威力を誇っており、彗星帝国の大戦艦に対しても有効打が期待できた。
拡散波動砲は後で述べるように彗星帝国との戦闘で一個艦隊をなぎ払う働きを見せた。
 巡洋艦、パトロール艦、護衛艦にもショックカノンはもちろん波動砲も装備されていたとする説もあり、当然戦艦のものに比べれば威力は落ちるであろうが強大な火力を有していた。
 このような火力を有していたからこそ防衛軍首脳は「彗星のひとつや二つ簡単に葬り去ってご覧にいれます。」と強気そのものの発言をしたのだろう。
 このように強大を誇った2201年の地球防衛艦隊であったが、弱点を指摘するものもいる。地球防衛軍長官は戦士はそろったが訓練度が不足しているとの指摘を行っている。また長官は繁栄になれた艦隊乗員の精神的な強さについても疑念を持っていた。
 また、このような内面的な要素のほかに装備でも個艦の対空火力が特に対空パルスレーザーの数が貧弱である点が弱点として指摘されている。
 だが、乗員の訓練度については再建艦隊である以上やむを得ないことであるし、対空火力についても濃密な対空陣形を形成すれば敵航空戦力に対しても対抗可能と考えられたのだろう。この時代は大艦巨砲の時代であった。
 これに対して彗星帝国側の戦力ははっきりしない。ただ、地球側に大規模な艦隊があることは察知しており、これを敵地で制圧することを目的としている以上地球艦隊と同数、またはそれ以上の戦力を有していることが想像できる。
 編成は戦艦と空母を中心にした艦隊であった。
 空母は大型であり、搭載する爆撃機は他の惑星攻略時にもその猛威を振るった。
戦艦も地球艦隊のそれに対して遥かに大型であった。防御力は地球艦隊に対し4〜5倍は強力とする説もある。また、艦橋部分に衝撃砲と呼ばれる武器を有していた。これは地球巡洋艦級に対しては一撃で撃破可能な威力を秘めていた。ただし、地球と異なり波動砲のような広域破壊兵器は搭載しておらず、その点が弱点であった。
しかし、この艦隊は彗星帝国歴戦の艦隊であり、強大な戦力であったことは間違いない。
 戦機は熟しつつあった。
 
 
 
 
第2段階 「地球艦隊出撃」
 地球は艦隊に出撃を下令、これを受けて全艦隊が月面基地から発進した。目標は土星付近に展開する敵艦隊を撃滅、しかるのち白色彗星を葬ることにあった。
 彗星が地球を目指す以上、これを破壊することは至上任務であった。
 彗星帝国第7艦隊司令バルゼーはこの出撃を喜んだ。彼が地球に攻め込まず土星で待機したのは敵の懐に飛び込み、各惑星基地や艦隊から集中砲火を浴びることを恐れていたからである。よって彼は自軍を待機させ、地球艦隊の出撃を待った。基地から支援の届かない地点でこれを迎え撃ち、撃破する。しかる後に地球と各惑星基地の制圧にかかるというのがバルゼーの考えだった。地球艦隊は出撃してきた。彼は必勝を予測した。
 地球艦隊出撃の様子は地球市民にTV中継されていた。この放送を制止する様子は伝えられておらず、軍、政府の承認付きの放送であろう。放送はハルゼーとの戦闘とその後の彗星への攻撃失敗、地球艦隊壊滅の場面まで続いた。
 地球政府は楽勝、そうでなくても勝利を予想していた。
 この点は当時の地球の驕りを示すものだろう。
 地球艦隊は火星を通過、木星軌道に入ったところで彗星帝国艦隊を発見し戦闘状態に入った。
 
第3段階「対空戦闘」
 地球艦隊を発見した彗星帝国艦隊は艦載機を発進させた。主として爆撃機から編成されていた編隊であった。
 彗星帝国爆撃隊は地球艦隊と接触、対空戦闘が始まった。
 文章資料1及び2は地球艦隊が迎撃機を発進、これを撃退したとしているが、映像資料では対空砲火のみでこれを撃破したとしている。前者は戦闘より後日に書かれたものであり、後者が正しいと見るべきだろう。
 まず、地球艦隊各艦は主砲ショックカノンを発射。これにより遠距離で編隊に打撃を与えた。これをものともせず突っ込む彗星帝国爆撃隊だったが、密集隊形をとった地球艦隊の濃密な対空砲火を突破できず、戦果を上げることなく撃退された。
 地球艦隊は陣形を楔形陣形に変換し進撃を続行した。
 地球艦隊司令官はこの攻撃を「生ぬるい」手法と認識しており、一方バルゼーもこの攻撃で地球艦隊が撃破出来るとは考えておらず、突破されても驚いた様子はなかった。双方の指揮官にとって航空部隊による爆撃は切り札ではなかった。やはり、艦隊同士の砲撃戦が主題であった。
 
 
 
第4段階「潜宙艦」
 進撃を続ける地球艦隊を見て、ハルゼーは潜宙艦部隊に攻撃を命じた。また、これらを支援するために駆逐艦など主力とする艦隊も配備していたする説もある。
 これらの待ち伏せ攻撃を受けた地球側には被害が続出した。特に右翼側の被害が大きい。映像資料は少なくとも戦艦1隻、巡洋艦級2隻、駆逐艦1隻が撃沈されたことを伝えている。これに対し、地球艦隊はソナーを上げ、潜宙艦部隊をいぶり出し、砲撃で撃破した。
 この場面を文章資料1は「見え透いた手に引っかかった」と批判する。事実、彗星帝国側はこれで戦闘の勝利は確定したと看做した。
 
第5段階「決戦」
 彗星帝国艦隊は当初から扇形の隊形をとり包囲を念頭においていた。潜宙艦部隊を突破されたのは意外だったが、地球艦隊の隊列は乱れており包囲はたやすいと考えた。
 しかし、これは地球側からの思わぬ反撃で打ち砕かれた。地球側は彗星帝国が包囲を仕掛けてくることを察知し包囲完成の前に先制攻撃を行った。
 旗艦アンドロメダが拡散波動砲を発射。これにより包囲陣形を取りつつあった彗星帝国艦隊は壊滅的な打撃を受けた。波動砲の閃光があらゆる物を打ち砕き、僅かな生き残りが逃れたに過ぎなかった。この情景は彗星帝国大帝ズォーダーをして「無様」と言わしめた。
 なお、文章資料2は波動砲を行ったのはアンドロメダだけではなく、複数の主力戦艦も加わったとしている。この時、バルゼー艦隊は横隊であり、アンドロメダの拡散波動砲2門のみで、この広範囲の敵を殲滅したということは俄かには信じ難く、複数戦艦による攻撃はこれを解決しているようにも思える。だが、映像資料を見る限り発射は単独で行われ、周囲の味方艦から発射の閃光は確認できず、この可能性は低いと考えられる。
 となれば、アンドロメダの拡散波動砲が横に展開し、包囲行動中の敵艦隊をなぎ払ったのであり、その威力には脱帽するしかない。
 このように直前まで勝利を予想していた彗星帝国艦隊は壊滅、戦闘は地球艦隊の圧倒的勝利で幕を閉じたのである。
 
 
その後
 彗星帝国艦隊を撃破した地球艦隊は彗星を発見し、その前面でマルチ隊形を取った。マルチ隊形は波動砲を最も効果的に使用できる隊形であり、彗星を破壊するには最適と思われた。
 エネルギー充填を終えた地球艦隊は砲撃を開始。しかし、彗星に対してそれはなんの効果もなかった。彗星そのまま艦隊に突入。「反転180度全艦離脱」の命令も空しく超重力に引かれ、アンドロメダも戦艦も巡洋艦も全てが粉々に砕かれた。
 再建地球防衛艦隊はここに壊滅したのである。
 
 
 
文章資料の戦闘評価
 この戦闘に対して、文章資料は戦闘の記録ばかりではなく評価も記述している。
 文章資料1は地球艦隊の行動は稚拙なものであったとしている。
 古代によると地球艦隊の戦術上の失敗は以下の通りであった。
 
@第4段階で敵の見えすいて手にはまり、無意味に戦力をすり減らせた。
 
A第5段階で拡散波動砲を使用した。
 
B彗星攻撃時にマルチ隊形を採用し攻撃失敗時の方策を全く考えていなかった。
 
 としながらも圧倒的な彗星の力の前には一つの戦術ミスをしなくても壊滅は避けられなかったと結論した。
 @については奇襲が予想される空間を何の用意もなく進撃しているような印象があり、その点の批判としては妥当だろう。実際、この攻撃で地球艦隊が受けた被害は大きいと思われる。但し、潜宙艦を当時の地球艦隊が発見するのは困難だろう。文章資料1はヤマトは潜宙艦を発見していたとしているが、Bパターンにおいて、ヤマトは潜宙艦との戦闘で探知に失敗し被弾を許しており、これは疑わしい。
 ABは余りにも不適当な批判と思われる。
 まず、地球艦隊の目標は彗星の破壊である。それに最も効果的な武器は波動砲であり、彗星を迎撃できるポイントになるべく多くの波動砲搭載艦を到達させる必要がある。
 波動砲は戦艦級、巡洋艦級に搭載されており、前者は特に砲撃戦では集中攻撃を浴びる可能性が高い。彗星帝国の戦艦は大威力の衝撃砲を持ち、地球戦艦を撃沈することは可能である。
 文章資料1は一隻の戦艦が波動エネルギーを幾分か欠損したことを批判するが、それを出し惜しみ何隻かの戦艦が失われる危険を犯すのは正しいことだろうか?
 また、白色彗星迎撃時に地球艦隊が取ったマルチ隊形は波動砲攻撃には最適の隊形でありる。やりなおしが出来る隊形で攻撃し、彗星に突破されたあとも艦隊が維持できたとして、彗星が地球に到達するまえに再攻撃ができたかどうかは疑問である。
 正面に布陣せず、側面から攻撃をかければ良かったかもしれないがこれも彗星の高速を考えれば地球艦隊が波動砲エネルギー充填中にこれに追随できたかは分からず、正面での迎撃は止む終えなかったのではないか?
 このように、文章資料1は地球艦隊を不当なまでに低く評価している。これは証言をヤマト乗員にたよったため、地球艦隊へのある種の不満がこの記述に表れたのであろう。
 一方、文章資料2は地球艦隊の行動を高く評価している。
 しかし、その戦闘描写は映像資料のそれと矛盾する場面が多い。まず地球艦隊司令は対空戦が終わった段階で戦艦群に波動砲エネルギー充填を下命。潜宙艦とその支援艦隊の攻撃に構わず充填を続行し、バルゼー艦隊が包囲行動に移った時に波動砲一斉射撃を行い、これを殲滅したとする。
 映像資料から対空戦終了の段階で充填命令がだされたとは思えず、また複数の戦艦によ波動砲攻撃であった可能性は低く、実際の戦闘とかなりのズレがある。よってこのような記録から「鮮やかな作戦」と地球艦隊の行動を評価することは無理があるのではなかろうか。
 文章資料は映像資料では語られない部分を関係者の証言で再現しており、その点では貴重なものであるが、この地球艦隊と彗星帝国艦隊の戦闘の経過と評価については関係者の感情に基づく歪みのようなものが見られるのである。
 
 
勝利の要因(まとめに代えて)
 この戦闘は地球艦隊による圧倒的勝利であり、これはこの後もそして前にも例のないものだった。
 何故、これほどの大勝利を博したかと言えば、それはアンドロメダの拡散波動砲の威力につきる。
 彗星帝国側は散開しており、波動砲でも全滅はないと考えていたが、その射程と効果範囲は想定外だった。つまり技術的な奇襲を受けたのだ。それが、地球艦隊にとり最強の武器であり、それを使いこなしたところに地球艦隊司令の功績がある。
そこに戦術の妙は入り余地がないと言えばそれまでだが、その方法により彼は勝者になった。
 そして、それが白色彗星に通用しなかったところに、この艦隊の悲劇があったのである。
 
 
 
 



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