◆ 対決 ◆
「グランツェンシュトルム」の一撃で出来た突破口から傭兵達が次々と時空制御塔の中に流れ込んでいく。
「たぶん、マクシミリアンさんは最上階だよ!師匠!!」
「ああ!」
ハンスの言葉にウェインは頷いた。
もしかしたら、この瞬間にもマクシミリアンの儀式は完成するかもしれない。2人を先頭に傭兵国の精鋭たちが最上階へと進んでいった。もともと、この時空制御塔は傭兵国の領内にあったため、内部構造の調査も進んでいる。最上階へのルートは手に取るように分かっている。
建物の奥に進んでいく過程で外のひんやりした空気は僅かだが和らぎ、頭や服についていた雪が水に変わり、蒸発していく。
その時、一人の兵士が自分の横に何かの気配を感じ、その方向に視線を向けた。次の瞬間、彼の目に入ってきた何かが飛びかかってきた。
絶叫と怒号が辺りを覆った。
「敵だ!敵だぞ!!」
「敵だと!?」
後ろから響いてきた絶叫にウェインが反応し、後方に視線を向けていると、ハンスの鋭い声が飛んだ。
「師匠!前にいるよ!!」
「なっ!?」
ウェインが前に視線を戻すと、そこにいたのは今にも魔力の塊を投げつけようとするレッサーデーモンだった。
魔物が上にあげた手を振り下ろすと、魔力の塊がウェインめがけて突っ込んでくる。
「ぐっ!」
寸でのところで、ウェインは鎌を構えて、其の攻撃を受け止めた。
ウェインは武器を構えなおした。前にいる敵は何処から現れたのか、かなりの数になっていた。レッサーデモーン、レッサーユング、リッチ。いずれも強力なモンスターだった。しかも、彼等は整然と隊列を組んでいた。
「ありがとう。助かったハンス。」
「どういたしまして。」
「しかし、何故、モンスターが・・・」
後ろからパトリックのもっともな疑問が上がった。普通ならモンスターが整然と隊列を組んで人間に襲いかかるなど有り得ないことだ。
「敵の中にモンスター使いがいるんじゃ・・」
ハンスが思い出してたように言う。
「モンスター使い?」
「あれ、師匠、ゼノスさんから前の戦争の時のこと聞かなかったけ?・・・確か、シャドーナイトがモンスターを使って敵の輸送隊を攻撃したとか・・・」
「なるほど。」
そう考えれば、モンスターの行動も説明できる。問題はこれをどう突破するかだった。
ガアアアア!!!
モンスターたちが一斉にこちらに向かってくる。
「行くぞ!みんな!!」
「おお!!」
「当たれええ!!!」
ウェインの鎌がユングを砕き、ハンスの風のような礫の一撃がレッサーユングに突き刺さる。他の傭兵たちも強者ぶりを発揮して、モンスターどもを切り伏せていく。彼等が攻撃を行うたびに倒れるモンスターが続出した。
ウェインたちの猛攻に押されてモンスターは後退し、ウェインたちは最上階へと続く階段の直ぐ傍にまで到達した。
だが、後が無くなったモンスターたちは死に物狂いで向かってくる。そればかりか、後ろから増援さえも現れてくる。
「これじゃあ切が無い・・・!」
ハンスが苦々しそうに呻いた。もしも、モンスターが何者かに操られて自分達を攻撃しているのなら、他のルートで最上階に向かっている部隊も同じような妨害を受けているに違いない。
時間だけは律儀に過ぎていくというのに!
「ウェイン閣下!」
「ゲージー!?」
後ろからゲージーが部下を従えてやってきた。彼等も後ろで敵と戦っていたらしく、所々に傷がある。だが、彼等は後ろの敵を一掃してくれたようだ。心強い援軍だった。
魔法兵の一人がトルネードの魔法を発動した。魔導の力で生まれた疾風がモンスターの戦列を引き裂き、一掃していく。
一瞬だが、エレベーターの前に屯していたモンスターがいなくなる。
ゲージーが叫んだ。
「閣下!この隙に先にお急ぎください!!雑魚は我々が引き受けます!」
「しかし・・・君達は!」
「我々のことならご心配なく!私はさっきのミカエルの攻撃からも生き残ったのですよ」
ウェインは頷いた。確かにここで時間を潰している余裕は無い。
「分かった!後を頼む!」
「師匠!オイラも行くよ!!」
「私も!」
「GUUUUU!!」
ウェインに続いて、ハンス、セレブ、パトリックがエレベータに滑り込む。そして、強引に扉を閉め、最上階へ上るボタンを押す。
ウェイン達を乗せたエレベーターは独特な音を立てながら、上に登っていった。
行かれたか・・・・と、ゲージーはそれを見ながら思った。さて、次は自分達の仕事だ。
「行かれたか・・・皆!閣下の露払いだ!続け!!」
「おう!」
「ええ!」
ゲージーの仲間達がそれぞれの声でそれに賛同する。彼等は新手のモンスターがウェインの邪魔をしないように、群れに突進していった。
「うおおおお!!!」
エレベーターが最上階の出口につくまで、ほんの数分だった。そして、出口の前で、待ち受けていてた敵を蹴散らし、階段を駆け上がる。
おそらく、下の階ではゲージー少尉が他の傭兵達と共に、モンスターを防いでいるだろう。
急がなくては。
階段を急いで上りながらたまに現れる、モンスターを押しのけ、先を急ぐ。
強い魔力の波動が感じられた。マクシミリアンの傍に近づいたのかもしれない。
マックス・・・お前は・・・
「モウすぐダゾ、ウェイン!」
何故、こんなことをしたんだ・・・!!
最上階の扉が見えてきた。その扉にハンスが取り付く。
何故・・・!!!
「くう!かんぬきで塞いでる!これじゃあ・・・」
「ドケ!」
セレブはハンスに怒鳴ると、ソウルフォースの魔法でその扉を吹き飛ばした。
閃光と光、そして煙が巻く起こった。扉は粉々に砕けていた。あわてて、それを避けたハンスは苦笑いしながら言った。
「もう少し、おさえめでもいいんじゃない?」
セレブはそれに答えず、前を見ろという仕草をする。
もちろん、ハンスもそれが何を意味するかは分かっていた。
爆発による煙が晴れた。
扉の残骸を踏みながら最上階に足を踏み入れる。
かなり広い空間だ。灯りで中の様子は良く分かる。壁で仕切られた長細い場所だ。
この最上階は壁によって、4つの部分に分かれている。右側の区画、奥の中央区画、左側の区画。そして、ウェインのいる中央通路。右と左の区画は左右対称の区画で各々下に通じる階段を持っている。そして、それらは壁で仕切られているが、全て奥の区画に繋がっており、行き来は可能だ。
奥の区画には祭壇があり、その上に古代の仮面が不気味な魔力を周囲に撒き散らしながら、宙に浮かんでいた。
祭壇の下には何人かの人間が仮面を見上げていた。その中の一人がウェイン達に振り返った。
「これは、我が友ウェイン・クルーズ」
マクシミリアン・シュナイダーだった。
「君とこんな形で再会するとは思わなかったよ。」
声はあくまであの時と、士官学校時代のときと変わらない。だが、ウェインはマックスに違和感を感じた。
本当に、彼はマックスなのだろうか?とさえ思った。何事にも冷静で、それでいて平和への情熱は誰にも負けない静かな熱血漢。そんな彼の面影は何処にも無く、自分の目的を果たせるだけの力を手にし、それを使うことを心底喜んでいる。その結果人が死のうとも、人形になろうとも構いはしない。目に宿る光が、表情がその狂気を周囲に主張していた。
「やめるんだ、マックス!今すぐ儀式を中止するんだ!」
「何を言うかと思えば・・・・すでに儀式は完了した。後は発動を待つのみだ・・・」
勝ち誇るように言うマクシミリアンにウェインは言い返す。
「いいや、違う!」
儀式を妨害する方法は一つだけ存在する。
「発動の前にその仮面を破壊する!」
「やらせるものか!!」
マクシミリアンの前には20人ばかりの護衛兵がおり、続いてモンスターも現れた。彼等は儀式を妨害する狼藉者を抹殺すべく、スクラムを組んだ。
それだけではなく、中央通路には机や、土嚢でできた即製のバリケードも置かれ、ウェイン達の行く手を遮っていた。
「やはり、モンスター使いがいるようです。この部屋に・・・」
パトリックの声にセレブが頷き、自分達の両側面の壁を見る。
「アア、おそらく、この壁のムコウダ。」
モンスター使いと思われる気配は右の壁の向こう側から感じられた。だが、ウェイン達にはそのモンスター使いを直接攻撃する手段がなかった。魔法を使っても相手はディスペルかマジックシェルか何かで魔法に対して防御しているだろう。
あの集団を4人で突破するしかない。下にいる味方が来てから戦うのが本来だろうが、時間がそれを許さない。
ウェインは武器を構えた。他の仲間達もそれぞれの武器を構える。
スクラムを組んでいたモンスターの集団が前進した。護衛兵はバリケードから弓を射ようとしていた。
「ファイアーボール!!」
その隊列に向かってパトリックが火球を飛ばす。火球は隊列の後ろにいる弓兵の列の頭上で炸裂した。
「うう!」
頭上で魔法が炸裂したため、ダメージは無かった。だが、あまりの眩しさに弓兵達は狙いを狂わされた。矢があさっての方向に飛んでいった。何本かはウェインたちに向かってくるが、苦も無く弾き返した。
ウェインは駆け出し、一気に敵との距離を詰めていく。
「かかれ!」
モンスターたちがまず、ウェインたちに攻撃をしかけた。
「やああ!!!」
ウェインの一撃がレッサーユングを打ち倒した。だが、攻撃をした後に必ず生じる隙を狙って別のモンスターの攻撃が来る。見事な連携だった。
だが、ウェインは慌てず、その一つ一つを受け止め、また攻撃。彼の鎌が振るい落とされるたびにモンスターが倒れていった。
「危ない!」
横から礫が飛び、ウェインに攻撃を繰り出そうとしたモンスターを打ち倒す。ハンスやパトリックとも連携をとりつつ、前に進んでいく。
だが、マクシミリアン側も負けてはいない。数を頼りに隙を狙って攻撃をかけてくる。それだけではなく、弓兵が前回の醜態を挽回するかのように、次々と矢を放ってきた。
その攻撃がウェインたちの傷を増やし、もともと多くはない時間と余裕を奪っていった。
「・・・ハンス!援護してくれ!」
「わかった!」
ハンスの礫が飛び、絶叫をあげてレッサーユングが倒れた。その瞬間を狙ってウェインは走り出した。倒れたユングを飛び越え、一気にバリケードに向かっていく。
ともかく、あのバリケードを突破しなくては。至近距離に近寄ればインフェルノでバリケードを破壊できるはずだ。
「奴を前に行かせるな!!」
護衛兵の一人がそう叫ぶと、弓矢や魔法がウェインに集中した。
「くうっ!」
金属と金属が鋭くぶつかる音が連続する。ウェインの鎌が弓矢をいくつか弾き飛ばすが流石に数が多い。一つが頬をかすめた。そして、肩に弓矢が突き刺さった。
痛みを忘れながらウェインはどうにか近づく方法を探したが、防ぐだけで精一杯だタ。
そして、爆発。
「うあ!?」
ファイアーボールだった。数は一つではなく、複数のものだ。仕切りの向こうにいる魔導士が放ったのだろう。
爆風でウェインは吹き飛ばされ、床にその身を打ち付けられる。
ガアアアア!!!
奇声を上げならがウェインが突破したモンスター達が後ろから襲い掛かる。
その攻撃を倒れた状態で鎌で受け止めた。しかし、かなり体力を消耗しており、ジリジリと押されていく。
「くそっ・・・これじゃあ・・・」
その時、前にいたモンスターに何かが飛び掛る。
「GUUUUU!!!」
セレブだった。
銀色の狼はモンスターの首筋に食いつくと、そのまま床に押し倒していた。
攻撃から解放されたウェインは立ち上がり態勢を構えなおした。
「ありがとうセレブ。」
モンスターの血を口から滴らせながら、セレブが頷く。当座の危機は凌げたが、戦況は相変わらずだ。だが、このまま、屈するわけにはいかない。
しかし、そのウェインたちを見下ろしていたマクシミリアンの周囲に異変が生じていた。
「あれは・・・!」
マクシミリアンの周囲に光が起こり、その中から光り輝く槍のようなものがせり出してくる。 その数は4本。それらはやがて、宙に浮きその槍先をこちらに向けていた。
「ソウルフォース・・・!!」
物理系の最強の攻撃魔法。それもマクシミリアンが放ってくるのだ。並大抵の威力ではない。
ウェインは咄嗟に叫んだ。
「皆、あつまれ!魔力の力を高めるんだ!」
4人の仲間達が一箇所に固まれば、相乗効果で魔法防御力も強化される。それでなんとか凌ぎきるしかない。魔力による防護幕が作られる。
それが、あまりに都合の良い話であるのは分かっていたが。
光の槍がその一瞬後に動き出した。何かを思う暇も無く、それはウェイン達の目前に迫った。
ここで防護幕が効果を発揮した。光の槍は突進を止めなかったが、なかなかそれを突破できそうにない。
・・・いけるか・・・
そう思えたのも一瞬だった。光の槍の魔力が強まり、防護幕はガラスが投石を受けた時のようにあっけなく砕け散った。
駄目だ、もう・・・防げない・・・!
そして、衝撃。
ウェインは一瞬、自分と約束を交わした青い髪の少女のことを思い浮かべた。彼女との約束は果たせなくなってしまった。そして、目の前にいる親友の間違いを正すことも。
その思いも一瞬光がウェインの視界を支配した。
ソウルフォースは命中した。ウェイン達のいる場所はその閃光で見えない。
それを無表情な顔で見下ろしながらマクシミリアンは小さく言った。
「君は私の想いを理解してくれなかったのか・・・・」
ウェインは自分の理想を最後には理解すると信じていた。士官学校であれほど平和と戦争について語り合い、それぞれの方法で大陸に平和をもたらすことを誓ったウェインならそうしてくれると。
しかし、ウェインは結局そうはしなかった。傭兵国にしがみつき、平和を乱す元になった。そして、自分の決起を潰そうとした。
マクシミリアンは自分は今までこの企てのために、多くのものを犠牲にして来たが、ウェインの犠牲が自分にとっては一番痛い損失かもしれない。などと意味の無いことを考えた。
儀式の完成まで20分を切った。モンスター達の妨害で他の傭兵国軍もそれまでにはここにたどり着けまい。
しかし、この思いは自分の身近なところでは当たっていなかった。
ソウルフォースの生み出した光が消えると、そこに意外な光景が現れたからだ。
「何・・・?」
そして、左側の部屋で轟音と悲鳴そして煙が沸き起こった。
ウェインは目を開いた。一瞬前まで彼の体を貫かんとしていた光の槍は消え、その代わりに見えているのは自分の両手だった。体の痛みも感じない。かといって死んでいるわけではない。彼の両足からはしっかりと床の感触が伝わっていた。ハンスもパトリックもそしてセレブも無傷のままだった。
ウェインは自分の体を包み込むように存在する魔力に気がついた。
マジックシェル。
全ての魔力を無効化するこの魔法を使えるのは仲間にはいない。
ならば、誰が・・・?
ウェインが耳にしたのはその答えではなく、右の壁の向こう側から聞こえてきた何かの破壊音と悲鳴だった。それと同時にそれまで整然と隊列を組んでいたモンスターが呆けたように立ち尽くすと、思い思いの方向に進みだし、その障害になるものに攻撃を加え始めた。
その「障害」 にはウェインたちがなることもあったが、それまで共に戦っていたマクシミリアンの護衛兵も同様だった。
「何故、モンスターが・・・我々を襲う!?モンスター使いは何をやっているんだ!!」
護衛兵に動揺が走った。
それだけではない、右側の壁から誰かが剣を振るう音や悲鳴が聞こえてくる。姿は見えないが、誰かがマクシミリアンの護衛兵と戦っているのだ。
「誰かがモンスター使いを倒して・・・こうなっているのか?」
と、パトリックは言ったが、答えは分からなくても良かった。
今まで、ウェインたちを攻撃していた護衛兵はモンスターの暴走や、新たなる敵の出現で浮き足立っていた。
チャンスだ。
「そんなことはどうでもいい!行くぞ!!」
ウェイン達は混乱している敵兵に切り込んだ。
新しい敵の出現、攻撃はマクシミリアンからも正確には掴みきれていなかった。
まず、壁面が壊され、モンスターが突然現れた。彼等はいきなりモンスター使いを突き殺したのだ。そして、煙が立ちこめ、その煙から逃れるように護衛が逃げてくる。
このモンスター達は連携しながらこちらに向かってきており、誰かに操られているのが分かった。マクシミリアンたちは一気に混乱してしまった。
「くっ・・・一体誰が・・・!?」
マクシミリアンは魔法の詠唱準備に入った。トルネードの魔法を使えば、相手にダメージを与えることも出来るし、あの煙を振り払えるだろう。味方が恐怖を覚えるのは見えない誰かに攻撃を受けているからだ。これが見えるとなれば話は違ってくる。
「我が魔力よ・・・・」
しかし、詠唱に入った時、相手のほうから自分達の正体を名乗り出てきた。言葉ではなく、殺気という気配で。
マクシミリアンは混乱する味方にまぎれて、誰かが自分に近寄ってくるのを見た。
本当に至近距離だ。彼は剣をこちらに向け飛び掛ってくる。
「くうっ!」
魔法の詠唱を途中で止め、そのままトルネードの魔法を放つ。そして、自らの剣を取り出した。
飛び掛ってくる相手の剣とマクシミリアンのそれが交差し、鋭い音を放った。
「マクシミリアン・・・・久しぶりだな・・・」
「・・・カーマイン・ホルスマイヤー・・!」
オッドアイの救世の英雄。カーマイン・ホルスマイヤーであった。
「マクシミリアン様!」
護衛がカーマインの背中に切りかかろうとしたが、それは何処からとも無く飛んでくるファイアーボールの魔法に邪魔されてしまった。
飛んできた方向に護衛兵全員の目が注がれる。
「大将同士の一騎打ちを邪魔するなんて無粋じゃない?」
マクシミリアンが発動したトルネードの魔法で煙は既にはれていた。
「貴様は・・・シャドーナイト・・・リビエラ・マリウス・・・この雌狐めが!」
彼女は手に袋を持っていた。モンスター使いを殺したモンスターはおそらくリビエラが操っていのだろう。
護衛兵達の一部が彼女に向かっていく。
近距離に近寄られれば、魔術師の彼女は分が悪い。だが、リビエラは余裕の表情のままだった。
「あら、そんなことが出来るかしら?」
彼女に操られていたモンスターが護衛兵達に襲い掛かる。遠距離から弓を射るものもいたが、モンスターがリビエラの壁になり、彼女には全くダメージを与えられなかった。
妨害はそればかりではなかった。
突如、爆発が巻き起こり、2,3人が吹き飛ばされた。
「ワシもおるぞい。」
リビエラの隣に現れたクリムス博士だった。老科学者の手には巨大な大砲のようなものがある。これが彼のリングウェポンだった。次の攻撃までに10分近くかかるというものではあったが威力は抜群だった。
2人の妨害のお陰で護衛兵が大将同士の一騎打ちに手を出すことが難しくなっていた。
ここまでは、上手くいったな・・・
その通りだった。カーマインたちは時空制御塔に結界が出来る前にテレポートで潜入。そこで、マクシミリアン軍の兵士に化け、傭兵国軍との戦闘が始まった混乱を利用して、戦闘用動力炉を破壊。
そして、最上階へと進み、マクシミリアンと一騎打ちの態勢に持ち込んだ。
これまでに、味方のリビエラ、シャルローネ、クリムス博士、ピアノは致命的な傷を受けずに済んでいた。
奇跡の連続。そういえるかもしれない。しかし、ここで負けて儀式が完成しては、この奇跡は全く無価値になってしまう。
剣を持つ手に一層力をこめた。だが、マクシミリアンも負けてはいない。
「これはこれはグローランサー殿。お久しぶりですね。それとも、アルフレッド卿とお呼びしたほうが宜しいか?」
「カーマインでいいよ。シュナイダー卿」
マクシミリアンは剣の柄にこめている力を一層強くした。ギリギリと自分の剣を押し返していくる。
「世界を救った貴方が、世界に平和をもたらそうとする私に剣を向けるとはいかなるおつもりですか?」
カーマインの剣の力が増し、今度はマクシミリアンの剣が押し返される。
「俺は世界を救ったわけじゃない。俺の周りにいる人たちを救いたいと思って戦っただけだ。」
カーマインは淡々と続けた。
「お前のしようとしていることは、俺の周りの人たちを変えてしまう。だから止めさせる。・・・・それに、ジュリアを生死の淵をさ迷わせた罪をここで償ってもらう。」
言い終わるなり、カーマインは稲妻のような一撃を繰り出す。マクリミリアンは剣で受け止めようとしたが、支えきれず肩にその剣が突き刺さる。
「ぐっ!」
いける・・・!
カーマインは態勢を崩したマクシミリアンに更なる攻撃を加えようとしたが、彼の横から生き残っていた護衛兵の体当たりを食らった。
「ぐあ!!」
突き飛ばされたカーマインは壁に激突した。痛みをこらえて態勢を立て直すが、その周りには5人ほどの兵がいて、カーマインを取り囲んでいる。各々相当の手練らしい。
「ご無事ですか!マクシミリアン様!!」
カーマインを突き飛ばした護衛兵がカーマインに剣を向けつつ、言った。生き残っていた僧兵が回復魔法でマクシミリアンの傷を癒した。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、助かった。皆あと少しの辛抱だぞ!」
その後にマクシミリアンは継ごうとしたが、それは中央通路をふさぐように作られたバリケードが粉微塵に粉砕される音と、ついで現れた男の声で掻き消された。
「マックス!!」
バリケードをインフェルノで破壊して、向かってくるウェインの姿がマクシミリアンの目に映る。
ウェインが振り下ろした鎌とそれを受け止めようとマクシミリアンが突き出した剣が交差し、鋭い音が響き渡った。
2人ともその衝撃に弾かれる。だが、その目は相手を見たままだ。鎌を構えながらウェインは距離を取り、次の攻撃の機会をうかがう。
「マクシミリアン様!!」
「お前達の相手は俺達だよ!!」
ハンスの礫が飛び、セレブが持ち前の機動力を生かして、敵の隊列を引っ掻き回した。
あれは・・・・!
ハンスはようやく、マクシミリアンのモンスター使いを誰が倒したのかを知った。
リビエラたちだ。おそらくシャロもいるのだろう。
「あいつ等はどうするのだ?」
セレブの問いかけにハンスは一番妥当と思われる答えを口にした。
「・・・あの人たちは当分の間無視しよう」
彼女達もマクシミリアンと戦っているのだ。今は儀式を阻止することが優先した。
そのように判断したのはリビエラも同様だった。
「・・・ふん・・・・」
今はまだスタークベルクでの仮を返す時ではないようね。
こうして、奇妙な共闘関係が出来上がった。カーマインは5人の重戦士とその他の歩兵や魔法兵、弓兵をセレブが直接攻撃を、ハンスが中距離攻撃。そしてリビエラが魔法攻撃、パトリックが支援魔法を。
彼等が護衛と戦いを繰り広げている間にマックスとウェインの戦いは頂点を迎えようとしていた。
何度も鎌と剣が互いの間で交差していた。真剣勝負だ。ウェインは親友に言いたかったことをいうことにした。
「マックス!・・・まだ、間に合う。降伏してくれ!そうすれば、多くの命が助かる。」
表情を硬くして心の底から絞り上げた声でウェインは続ける。
「出来れば、お前を傷つけたくない・・・!降伏してくれ。」
頼む・・・
マクシミリアンは言葉ではなく行動で返答した。彼は剣を振り上げ、ウェインに撃ちかかった。
ウェインはその攻撃を受け止める。
「マックス!!」
マクシミリアンは激昂した。受け止められていた剣を再び振り上げ、渾身の力で打ち下ろしてくる。
「降伏しろだと!?ふざけるな!!あと、少しで・・・あと少しで争いのない平和な世界が創れるんだ!ここまで来て誰にも邪魔はさせない!!それに君は一体何をやってきた!?傭兵達の馬鹿騒ぎに加担してそれが、どんな結果をもたらしたのか考えたことはあるのか!?」
あの戦争でどれがけこの大陸が不安定になったと思っているんだ!!
マクシミリアンの放った攻撃がウェインのわき腹を掠めた。傷口から血がにじんだ。
「大陸を不安定にしたことを後悔しているなら、私に協力するんだ。そうすれば、君は自分の罪を・・・・償える。」
ウェインはそれは出来ないというように首を僅かに振った。
「マックス・・・俺は後悔していないよ。」
傭兵達の決起で、少なくともその故郷を作り出せた。そして、この故郷を守りたい。大陸を不安定にしたのは、事実かもしれないが、これから、大陸を安定させていくことは出来ることだ。ウェインはそう信じていた。
「お前の作ろうとしている世界は、2000年前に大きな悲劇を生み出した世界なんだ・・・何故、それから学ぼうとしない!?人間から人格を奪って人形にした世界に平和が来たって一体何の意味があるんだ!!」
「そんなことは分かっている!!」
「いいや、分かっていない!」
マクシミリアンの繰り出した一撃をかわし、ウェインは反撃に転じる。鎌の一撃がマクシミリアンの頬に細い傷を作った。
「人間の平和は人が人である場合にしか価値なんかない。人は確かに愚かだし、意地っ張りだ。だからといって人格を否定するのは間違いだ。君が何度も言っていた平和は人が人である世界の平和じゃなかったのか!?」
「そうやって争ってきたのが人間だろう?」
マクシミリアンは自分が辿り着いた結論を口にする。
グローシアンの先例は私も知っている。欠点はあるだろう。
「だが、私は言霊の面を支配の道具としては使わない!少なくとも、人同士が争うことは無くなるんだ!」
話は平行線だった。
ウェインは言い合うたびに自分と彼の意見の間に大きな溝があることを思い知らされた。
それぞれの場所で平和のために努力する。そう約束したころはあんなにも近かったのに・・・
再び武器と武器の間に火花が散った。
「そのために、私は君を倒さなくてはならない!」
ウェインは思った。マックスは変わってなどいないのだ。理想に向かい、どんな犠牲も払う覚悟が出来ている。その意志の強さは昔のままだ。その目標があの仮面の魔力によって歪められているのだとしても。
だからこそ、彼の誤りを正さなくてはならない。
・・・マックス・・・それが君の信念なら・・・
「俺はお前を討つ!」
ウェインは鎌を振り上げ、マクシミリアンの攻撃を振り払い、反撃を加えた。だが、マクシミリアンもそれを難なく受け止めた。
2人の武器が相手を倒すために何度もぶつかり合い、時たま相手に掠り傷を負わせた。
だが、それはお互いに決定打を加えるのを待っていたに過ぎなかった。2人は決定打を放てるのに少しでも有利な態勢を占めようと頻繁に位置を変えた。2人の戦いの場所はいつの間にか祭壇から下の床に移っていた。
勝負は一撃で決まる。
やがて、その時が来た。
「うおおおおお!!!」
マクシミリアンは上から剣を振り下ろし、ウェインが下から鎌を振り上げた。その時、マクシミリアンの視界の片隅に誰からが放ったソウルフォースがある方向に向かって突き進んでいくのが見えた。
その魔力が進む先にあったのは言霊の面。
そのくらいの攻撃魔法なら言霊の面は耐えられる。マクシミリアンはそう考えた。何故なら、あの仮面は強力な魔力を放ち、自らを攻撃から守っており、あの程度の攻撃を跳ね返したことはざらにあることだったからだ。
事態は確かにそのように進行した。
ソウルフォースは仮面を破壊することなく、その強力な魔力に遮られて、弾き飛ばされてしまった。
しかし、仮面に異変が起きていた。仮面のほぼ中央に弓矢が突き刺さっていた。
・・・・なに・・・・
マクシミリアンの動きが一瞬止まった。それは、ウェインにとっては十分以上の隙だった。
「ぐふっ!!」
直後に衝撃が来た。
ウェインの鎌がマクシミリアンの体を深く抉っていた。その衝撃で彼は後ろに吹き飛ばされ、床に倒れた。
瀕死の身だったが、マクシミリアンは顔を上げ、言霊の面の無事を確認しようとした。それが無事であれば、彼は満足だった。
だが、言霊の面は無事ではなかった。
弓矢が突き刺さった場所から仮面に亀裂が入っていた。最初は一つだけ。それが四方に広がり、仮面全体が亀裂に支配された。そして、言霊の面は崩れ落ちた。
・・・・私は夢を見ているのか?・・・言霊の面が・・・・
言霊の面が放っていた魔力が消えた。それが戦闘終了の合図だった。マクシミリアンの護衛は一人残らず倒されていた。
勝ったのか・・・・?
ウェインはそのことを実感できずにいた。その沈黙を女性の声が破った。
「どうやら、終わったようね。」
聞き覚えのある声だったウェインが後ろを振り返ると、セレブやパトリックの後ろにかつて仲間だった少女が立っていた。
「シャロ・・・」
言霊の面を射たのは彼女だったのだろう。弓を射る姿勢のままだった彼女はその構えを解いた。彼女の全身が光に包まれた瞬間、彼女の姿はカーマインの後ろに瞬時にして移動していた。
テレポートの魔法だ。
「どうやら、うまくいったようですね。」
どこからともなく現れたピアノにカーマインは頷いた。
「ああ、よくやってくれた。」
リビエラの魔法とシャルローネの弓の合体技だった。まず、リビエラの魔法で言霊の面を守っていた魔力シールドを一時的に消失させる、その瞬間に弓矢が言霊の面に突き刺さる。
合体技は成功した。マクシミリアンが祭壇から下におり、言霊の面ががら空きになった瞬間を狙って一撃を加えたのだ。
「あなたたちは・・・」
カーマインにウェインが呼びかけようとした時、倒れていたマクシミリアンが起き上がり、口から溢れ出る血を手で押さえながら歩き始めた。
「マックス・・・!」
マクシミリアンはウェインの言葉を無視して、言霊の面があった祭壇を登り始める。そして、祭壇の上に落ちている言霊の面の破片を一つ一つ拾い出した。
「私は・・・・戦いの無い・・・世界を」
破片を掴んだ手を天に向かって差し出す。そうすれば、自分が目指した世界が実現するとマクシミリアンは信じてるようだった。
だが、彼の望んだ奇跡は起こらなかった。やがて、彼の足がふらつき始めた。本来ならまともに立っていられないくらいのダメージを受けていた。
「マックス・・・・」
そして、マクシミリアンの体は祭壇の周りにある穴へと吸い込まれていった。
「マックスー!!!!!」
ウェインが駆け寄り、マクシミリアンを助け出そうと手を伸ばしたが、彼の手が旧友を掴むことは出来なかった。
マクシミリアンは無言のまま、こちらを振り向くことなく、闇の中へと消えていった。
「マックス・・・・」
しばらく、マクシミリアンを飲み込んだ闇を見つめていたウェインの肩をハンスが叩いた。
「師匠、向こうを・・・」
ウェインが目をむける。そこにはカーマインたちがいる。まだ、戦いは終わっていない。
「さて、どうする諸君。」
どうにか、マクシミリアンの陰謀を食い止めることは出来たが・・・
カーマインはウェイン達に問いかけた。
「ここで一戦交えてみるか?」
ウェインは首を横に振ると、精神の集中を解き、彼の鎌は光と共に消え、だたのリングに戻っていた。
「やめましょう。カーマインさん。お互いに無意味だと思います。」
お互いに疲労しきっていた。リングウェポンを出すのが困難なほどに。
カーマインの武器も光と共にただのリングへと変化した。
「そうだな・・・その通りだ。」
カーマインは床に座り込む。ウェイン達も同様だった。
だが、カーマインたちにとってここに長居するのは賢明ではなかった。モンスター使いを倒したことで、モンスターの妨害がなくなった時空制御塔内の傭兵国軍が最上階にいつ来るか分からなかった。
ピアノがすぐにテレポートの詠唱に入った。送り出す人間は自分もいれて5人。時間がすこし必要だった。
「俺達が時空制御塔に突撃した時、唐突に結界がなくなりました。あなた達の仕業だったのですか?」
「他に、出来る人間はいないだろう?」
「助かりました。・・・・シャロもそしてリビエラも。ありがとう。」
カーマインの後ろにいた2人は好悪の入り混じった表情でかつてのリーダーを見ていた。
「別に、礼を言われるほどのことじゃないわ。」
「そうですよ。カーマイン隊長の命令だったし、バーンシュタインのためにしたことだから・・・いつか、前の戦いでの借りは返すわよ。」
リビエラとシャルローネのにべもない答えが返ってきた。そうなることは分かっていた。俺は彼女達にとっては裏切り者なのだから。
だが、それでも、こうして話せたことがウェインには嬉しかった。
ハンスは
「シャロもリビエラも変わらないよなあ。」
とぼやいていた。
ピアノがカーマインに合図を送った。テレポートの詠唱が終わったのだ。カーマインはウェインに言った。
「・・・・休戦してくれて感謝する。まあ、次に会うときは戦場だろうが・・・ゼノスにもよろしく。」
「ええ」
ピアノが魔法の発動に入った。カーマイン、リビエラ、シャルローネ、クリムス博士の体が光に包まれていく。
カーマインはテレポートで跳躍する直前に、再びウェインと視線を合わせた。
ウェインと始めて会ったのは、アグリスの堰の破壊の容疑をかけられていた彼を助けた時だ。彼がその後、バーンシュタインに反旗を翻し、傭兵国を率いることになるなど夢にも思わなかった。
本当に、分からないものだな・・・未来は。
それから、一瞬後、カーマインたちの姿は光と共に消えた。
ウェインは通信機に向かって言った。
「ゼノスさん、聞こえますか?」
「ああ、聞こえる。どうした!?奴はマクシミリアンは・・・」
「何とか倒せたよ。」
「そうか・・・」
「マクシミリアン軍の追撃は?」
「そろそろ、遠くに行き過ぎた。追撃を中止して、部隊を呼び戻している。」
「じゃあ、軍の再編をおねがいします。急いだほうがいいかもしれません。」
「師匠、そろそろ帰らない?」
疲れたようなハンスノ声にウェインは頷く。
「ああ、それにあんまり愚図愚図してはいられないからな。」
その意味が把握できなかったパトリックが尋ねた、
「どういうことですか?」
「カーマインさん達の本来の任務は多分、この塔の結界を壊すことだったんだ。・・・・でも、壊し後はどうするのか?味方の軍勢が乗り込む・・・ということだろ?」
「と、いうことは・・・」
ウェインに変わってハンスが答えた。
「バーンシュタイン軍もこの時空制御塔に向かっているということ。」
まあ、途中で僕達が蹴散らしたマクシミリアン軍の敗残兵とぶつかるだろうから、進軍速度は遅いし、混乱してるとは思うけど・・・
パトリックの血の気が引いた。
「じゃ・・じゃあ、早く応戦の準備をしないと・・・!」
「そう、だから急ぐんだ。」
「GUUUUU」
ウェイン達はこの忌まわしい最上階から地上へと続く階段を駆け下りていった。
階段を下りようとする時、ウェインは後ろを振り返った。マックスが後ろにいる気がした。だが、彼の姿は見えるはずも無かった。倒れ付した死体と言霊の面のかけらが散乱した静かな部屋が見えるだけだ。
「・・・・マックス。」
親友の名前を口にしてウェインは階段を駆け下りた。
もしも、彼がいてもそれは、彼ともう一度戦わなければならないことを意味している。それでも、マックスにいてほしかった。その気持ちの現われか、ウェインの目から一筋の涙が零れ落ちていた。
その願いを断ち切るようにウェインは涙を拭った。
行かなくては。
ウェインは仲間と少し、距離が離れてしまったので、急いで階段を降りていった。
(つづく)
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